第47話 人生はいつだって唐突で不条理
花火を見終わった現在帰宅中。夏祭りの会場付近は人でいっぱいだったが、会場から離れるに順って段々と人が減ってきた。今はもう疎らにしか人はいない。
「夏祭りもあっという間に終わっちまったなー。まだまだ楽しみたかったんだがなー」
「お前最初に射的やった以外は食ってばかりだったじゃないか。まだ食い足りないのか?」
花火が上がる前にいろいろ食べ物を買ったが半分近くは相川が食べた。花火そっちのけで食べる姿は正に花より団子だった。流石運動部と言うべきか?
「流石にもうほとんど食べれないわ。軽い物ならもう少し食えるけど」
「食えはするのか…」
少し前を歩いている藤林達を見ながら藤林達が食べてるわたがしを少し貰おうかなと呟いている相川には呆れた。体重が増えて減量するハメになっても知らんぞ。
「………」
「………」
しばらくの間無言で歩く。少し前からはわたがしを食べながら談笑する藤林と宮本の声が聞こえる。楽しそうで何より。
「……なあ蓮夜、今日は楽しかったか?」
「楽しかったぞ」
しばらく黙っていた相川が口を開く。楽しかったのは嘘ではない。ガキの頃に比べると負けるが。口には出さないけど。
女々しいのは分かっているがなかなか昔のことを吹っ切れない。割り切ったつもりでも事あるごとに昔と比べてしまう。
(もはや呪いみたいなものだな…)
解呪は出来るのだろうかと考えていると楽しかったと言う俺の言葉をそのまま受け取ったのか相川が安堵したように息を吐く。
「楽しめたのならよかった。嫌々来てるかもしれないと思ってたからな」
「………」
「俺達がしたことは許されない。蓮夜は許すって言ったが、だからと言ってあの頃に戻るつもりがないのも理解している。藤林と宮本はあの頃に戻りたいみたいだがな」
「………」
「だが俺もこのまま疎遠になってしまうのだけは嫌だ。だから蓮夜、あの頃みたいに戻れなくてもいい。新しい関係を一から築いていかないか?あの頃とは違った形でもいいから俺は幼馴染四人で過ごす時が欲しい。今日みたいにな」
「………」
相川がこんなことを考えているなんて思わなかったな。何も考えてないかと思った。
「……今はなんとも答えられないな」
別に今日みたいに遊びに行くのはいい。ドライな付き合いなら。気が向けばになるが。だが相川が言う新たな関係はディープなものだろう。そうなると躊躇いが生まれる。
もう一度関係を深め信頼を築いたとして、もしその信頼が崩れた時に自分が正気でいられるか分からない。だから躊躇してしまう。
「……そっか」
俺の答えを聞いた相川はそう溢した。その一言にどんな気持ちが込められてたかは俺には分からない。
「まあたまにでも四人で集まれたらいいさ。藤林や宮本と違って俺はそれでも満足だ」
それも新しい関係だろう?と笑う相川。話はこれで終わりだと言うようにたわいも無い話をする相川に合わせて俺も話す。
相川が内心どう思ってるか知らないが、それを聞く権利は俺にはない。
「おっと、靴紐が解けてやがる」
真面目な話から一転、たわいも無い話をし始めて数分。相川が自分の靴紐が解けているのに気付いた。それに合わせて立ち止まる。俺達が真面目な話をしている間に気を遣って少し距離を空けていた藤林と宮本は俺達が立ち止まったことに気付かず歩き続けている。
相川が靴紐を結んでいる間にすることもないので辺りを見回しているとこちらに近づいてくる車に気付いた。なんとなくその車を見ていると何故かフラフラ左右に行ったり来たりしている。
(酔っ払いが運転してんのか?)
ここは信号機のある交差点で俺と相川は交差点の手前で止まっているが、藤林と宮本は信号が青なので交差点に侵入している。俺達の右側からやってくる車からは赤信号が見えている筈だが減速する様子はない。
(おいおいおい!信号見てねぇのか?)
そろそろ減速しないと交差点で止まれないだろうと思う距離まで来ても減速しない。
「チッ!」
これはヤバいと思って藤林と宮本の方へ走り出す。判断が遅れたことを悔やみながら前を見ると右から来る車に気付いて目を見開いている藤林と宮本。ようやく気付いたのかブレーキを踏む音が聞こえるが止まれそうにない。
(どうする?突き飛ばすか?いや、漫画とかじゃないんだし突き飛ばしたところでたいして距離出ないだろ。ましてや二人だし最悪その場で倒れるだけだ。なら引っ張るしかないな)
そう判断して走り寄りながら驚いて棒立ちしている二人の腕を掴み自分の位置と入れ替えるように引っ張る。二人はギリギリ車に当たらないくらいまで下がったが、走って行った勢いのまま前に出た俺はそうもいかない。
(あっ、これ俺終わったわ。でもブレーキ踏んでるしワンチャン?つーか展開が唐突過ぎだろ。まあ交通事故なんてそんなものか。毎日のようにどこかで起こってるのに誰も自分が事故に遭うなんて考えないしな。事故に遭った人はみんな唐突な展開に唖然としたんじゃないか?やっぱり人生なんてものは不条理だな。しかしさっきまで幼馴染と今後の付き合い方をどうするか悩んでいたのに無駄になったな。というか関係を築くのをやめようかと思ってたくせに身を挺して庇うなんてヒロイックな真似をするとは思わなかった。やっぱり内心では幼馴染達を大事に思ってたのか?自分のことながら分からん。つーか思考長すぎじゃね?死の淵に立つと時間がゆっくりになるって本当だったんだな。どうせなら漫画みたいに何か言い残すか?死の間際に何か言い残すのは定番だしな。後は任せた?何をだよ。よくあるセリフだけどぶっちゃけあれ呪いの言葉じゃね?残される側はその言葉にずっと縛られるよな。またな?そう言って死んだらもう会えないしトラウマになりそう。というか何言っても呪いの言葉になるんじゃね?なんか呪いにならなそうで気の利いた言葉ないかな?あー…うー…)
「思いつかねぇ」
ドンッ!
そんな音と共に体に衝撃が走る。ブレーキ踏んでたからか思ったより衝撃は少なかった。だが倒れた時に後頭部を打った気がする。
(藤林と宮本は無事なのか…?)
なんとか視線を藤林達の方に向ける。意識を失う前に見たのは呆然として座り込んでいる藤林と宮本、見た事ない表情でこちらに走ってくる相川だった。
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