第46話 思い出補正は強力
「おっす蓮夜、久しぶり」
「ああ、久しぶりだな相川」
夏祭り当日、待ち合わせ場所に行くと既に相川がいた。女性陣はまだのようだ。
相川に誘われ行こうか迷ったが、引っ越すなら幼馴染達と夏祭りに行く機会はもうないのかと思い、最後ならと思い出作りに行くことにした。ニュースを見て人とあまり関わらないようにしようかなと気持ちを新たにしてすぐにこれである。
やっぱ自分は信用ならねぇと迷走する自分に呆れていると待ち合わせ時間に少し遅れて藤林と宮本がやってきた。
「置くれてごめん!思ったより動きづらくて…」
「ごめんね二人とも。遅くなっちゃって」
「俺達も今来たところ…って言えばいいのか?」
「付け足した部分がなければ正解だぞ相川」
藤林と宮本はそれぞれピンクと水色の浴衣を着ていた。人混みの中を浴衣のような動きづらい格好で進むのは大変だろう。多少遅れたところで俺は気にしない。
「ほんとにごめん。なにか奢るから」
「別に気にしなくていいぞ。大して待ってないし」
「それでも待たせちゃったし…」
「蓮夜も言ってたけど気にするなって!それより早く行こうぜ!腹減っちまった」
そう言って相川は先導するように歩きだす。その後ろ姿に苦笑しつつ後に続く。
「ほら、行こうぜ。俺も何か食いたい」
「ええ、分かったわ」
「うん、行こっか」
まだ申し訳なさそうにしている二人を促して相川を追いかけようとしたところでふと思い付き二人の方に振り返る。
「言い忘れてたが二人とも浴衣よく似合ってるぞ」
「あ、ありがと…」
「ありがとう蓮夜君」
待ち合わせのお約束を忘れていた。今来たたところって言うのと服装を褒めるのはお約束だろう。そんな適当な考えで口にした言葉でも藤林は照れて、宮本は嬉しそうにしている。
なんか逆に申し訳ないな。
「蓮夜、射的やろうぜ射的!」
「食い物はどうした?」
「食い物を持ったままじゃ出来ないじゃん?人混みの中で食うのもあれだし、先に遊ぼうぜ!」
それもそうかと相川に続いて射的の屋台に向かう。
「おっちゃん二人分ね!」
「はいよ。弾は一人五発だ」
渡された銃に弾を込めつつ景品をざっと見るが特に欲しいものはない。
「二人はどれが欲しい?」
射的をやるつもりはないのか後ろでこちらを見ていた二人に声をかける。
「えっ?」
「特に俺は欲しいものないから選んでくれ。取れるかは分からないけど」
「えっと、じゃああの猫のぬいぐるみ。瑠璃ちゃんは?」
「私は…うさぎのぬいぐるみで」
「あいよ」
二人のリクエストを聞き、とりあえず俺の正面にある猫のぬいぐるみに向けて一発撃つ。命中し多少揺れて後ろに下がったが落とせはしない。だが意外と威力があったので五発全部使えば落とせるかも。
その後一発外したがなんとか猫のぬいぐるみをゲットした。
「やるじゃん蓮夜。俺はお菓子しか落とせなかった」
「なんとかな。それより終わったなら場所代われ。おっさん、もう一回」
もう一回分の金を払い相川と場所を代わる。うさぎのぬいぐるみはさっきの位置からは狙い辛い。
その後五発全部使ってうさぎのぬいぐるみを落とした。店主のおっさんが笑いながらぬいぐるみを二つ渡してくれる。
「やるじゃないか兄ちゃん!女の子達にかっこいいとこ見せれたじゃないか!どっちが彼女だ?」
「どっちも違う」
冷やかしてくるおっさんに背を向けて藤林と宮本にぬいぐるみを渡す。
「ほれ」
「ありがとう蓮夜君」
「ありがとう蓮夜。わざわざ私の分も取ってくれて」
「いや、流石に片方だけってのはどうかと思ってな」
最初の五発で一つも取れないならそれで終わったが一つ取れちまったからな。二人に聞いた手前一人にだけ渡すのも気まずい。
「おーい、今度こそ何か食おうぜ!俺は牛串と焼きそばとお好み焼きが食いたい!」
遊ぶのは射的だけで満足なのか相川が食い物の屋台の方へ向かって行く。
「相変わらず落ち着きがない奴だな」
「昔から変わらないわねー。子供のまんま?」
「あはは。久しぶりにみんなに会えてはしゃいでるんじゃない?ほら一人だけ違う学校だし」
幼馴染達四人の中で一人だけ違う学校ってのはやっぱり寂しいのだろうか?そういや今日もあいつが誘ったんだっけ?
「おーい!」
相川が急かしてくるので考え事をやめて追いかける。さて、何を食おうかな?
「ここら辺なら落ち着いて食えるんじゃないか?」
「そうだな」
あの後それぞれ食べたい物を買って食べる場所を探して人混みを抜けた。少し薄暗いが高台にある神社の近くは人が少ないのでそこに陣取る。
「蓮夜は何から食う?」
「たこ焼き」
「ほい」
「さんきゅ」
相川に渡されたたこ焼きを一つ口に入れる。たこ焼き食うのも久しぶりだ。
「夏祭りなんて久しぶりだけどすごい人ね」
「そうだね。少し疲れちゃった」
慣れない浴衣で何軒もの屋台を回った女性陣は少しお疲れのようだ。もう少し気を遣うべきだったか?
「まあこれだけいろいろ買ってあるんだし、花火が上がるまでここでゆっくりしようぜ!他に何か欲しくなったら俺が買ってくるからよ」
「一人でか?」
「女子二人だけ置いてくわけにもいかないだろ?」
「それもそうか」
ナンパなんかが湧いてきたら面倒か。藤林も宮本もナンパされてもおかしくない容姿だしな。
そんなことを思いつつたこ焼きをもう一つ口に含んだ。
「そろそろ花火が上がる頃か」
「そうね」
そんなことを言ってすぐに花火が上がった。買ってきた物を食べつつ雑談しているうちに花火が上がる時間になったらしい。
食べる手を止めて空を見上げるともう一発花火が上がった。回りの人達もみんな空を見上げている。
久しぶりに見た花火は綺麗だと思いはすれどガキの頃に見た花火に比べて感動は少なかった。これは大人になったと考えるべきか単に見飽きただけなのか。それとも思い出補正か?
ガキの頃今日みたいに四人で見上げた花火は今でも思い出として記憶に残っている。小遣い片手に屋台を巡り、はしゃぎ疲れて人の少ない所で休んでいる時に上がった花火。綺麗だねと笑い合ったそんな楽しかった記憶。
「………」
今日の事も記憶に残り続けるだろうか?もし引っ越すなら幼馴染四人で花火を見上げるのも今日が最後だろう。
また来年も一緒に見上げるのか、記憶の中にしかなくなるのか、それとも空に消えていった花火のように記憶も消えてしまうのか。
今はまだ分からない。
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