第16話 殴りたい、この笑顔(二回目)
お気に入りの喫茶店で読書をしていたら日が暮れていたでゴザル。
「居心地がいいのも考えものだな」
スーパーのタイムセールが始まるまで時間を潰そうと思ったら長居をし過ぎた。目当ての物は主婦達に根こそぎ持っていかれた。戦争に参加することなく敗北してしまうとは…。
今日は参加できなかったがタイムセールのあるスーパーも戦場だ。修羅と化した主婦は恐ろしい。
以前参加したタイムセールを思い出しつつ帰宅する。予定より軽いマイバッグをぶらぶらさせつつ公園の横を通ると話し声が聞こえてきた。ベンチに座っている中学生くらいの女の子にスーツを着た男性が話しかけている。
(どう考えても怪しい現場だ…)
まあだからと言って何かする訳でもないんですけどね。事なかれ主義国の住人らしく見て見ぬふりをする。下手に介入すると俺まで警察に連れてかれるかもしれない。
(まあこんな時間に一人でいる中学生を心配して声をかけただけかもしれないし…)
最近は親切心で声をかけたのに通報される時代だ。事なかれ主義と言われるけどそんな社会ならみんな見て見ぬふりするようになるわ。
そう考えつつ目を離そうとすると女の子と目が合った。面倒くさそうな表情をしていたのが俺を見つけて何か考えるような表情になり、その後笑顔になった。
(あっ…面倒な事になりそう)
そう考えて離脱しようとしたがその前に女の子が走ってきた。
「お兄ちゃぁぁぁぁぁん!待ってたよぉぉぉぉぉ!」
嘘吐つくんじゃねぇよ!初対面(多分)だろ!
そうは思いつつも今更逃げるわけにもいかない。下手に逃げると怪しまれそうだ…。ここは話を合わせるべきか…。
「すまんな妹よ。買い物に時間がかかってしまった。ごめんな?」
「しょうがないなぁお兄ちゃんは。でも私は優しいから許してあげる!」
そう満面の笑み(偽)で言ってくる妹(仮)。殴りたい、この笑顔。
「あなたはお兄さんですか…?」
なにやら不機嫌そうな男性もこちらに来てそう尋ねてくる。嘘なんだろ?嘘だって言え!って目が語ってる。
獲物を横取りされて怒ってんのか?この分だと親切心で声をかけた訳じゃなさそう。
「ええ、そうです。妹がお世話になりました。後日お礼に伺わせていただきますのでお名前とご住所を教えてもらってもよろしいですか?」
「えっ⁉︎いや、そ、そこまでは…」
「いえいえ、こんな時間に妹が一人で無事だったのはあなたのおかげです。もしあなたがいなければ不審者に声をかけられていたかもしれないので」
「そ、そこまで気にしていただかなくても結構です!そ、それでは私はこれで!」
そう言いながら焦ったように公園を後にする男性。まあ名前や住所を言う訳ないよね。もし妹(仮)が不審者に声をかけられていたと言ったら警察が押し掛けてくるかもしれないし。
そう思っていると後ろから声をかけられる。
「ありがとねーお兄さん。あの人何度も声かけてきてさー。めんどかったんだよね」
先程とは雰囲気が違う妹(仮)。さっきのは演技だと分かりきっているので驚きはない。
「ならとっとと帰るんだな」
それだけ言って踵を返す。さっさと別れないと今度は俺が不審者扱いされかねん。
「ちょっ、そんなすぐに帰らなくてもいいじゃない。もう少しお話ししましょうよ」
「俺はさっさと帰りたいんだ。腹減ったしな」
「なら何処かへ食べに行きましょうよ。もちろんお兄さんの奢りで!」
「この食材の入ったマイバッグが見えんのか?」
明らかに自炊しますって主張してんだろ。
「…おつかい?それともお兄さんは一人暮らしなの?」
「一人暮らしではないが…まあ家では腫れ物扱いだからな。自分で家事をやってんだよ」
何家の情報を漏らしてんだ俺は…。そう自分に呆れつつ振り返って妹(仮)の顔を見る。
「………」
「………」
目を合わせると互いに無言になった。さっきは満面の笑み(偽)で気付かなかったが、妹(仮)の目には見覚えがあった。毎日鏡で見る目だ。
「へぇ…。お兄さんさ、提案があるんだけど?」
「…言ってみ?」
「私の家に来て料理作ってくれない?」
そう笑顔を貼り付けた顔で提案した妹(仮)の目はもう誰も信じないと語っているが如く濁りきっていた。
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