第15話 体育館裏は告白スポット
俺の体はボロボロで満身創痍。だが右手に掴んだ物が達成感を伝えてくれる。そう、俺は戦場で生き抜き勝利(焼きそばパンとカレーパン)を掴んだ…!
身体中が痛い…。おのれアマゾネスめ…。俺の身体をボロボロにしてくれた敵を呪いつつ、静かに休めそうな場所を探す。
(体育館の裏なら誰もいないか…?)
人がいないだろうと考え体育館裏へ行き、腰を落とす。そうして一息付いてから戦利品に手を伸ばした。
「美味いな、これ」
思わず口に出るくらい戦利品(焼きそばパン)は美味かった。確かにこの味なら戦場に身を置く人間が多いのも頷ける。
明日も購買にしようと決意を新たにしていると体育館裏に見知らぬ男子がやって来た。建物の陰になるような位置に座っている俺には気づいていないようだが。
なにやらそわそわしている男子を見ていてふと気付く。体育館裏はヤンキーの溜まり場、イジメの現場と並んで告白スポットでもあるじゃん。
出歯亀をするつもりはなかったが、今から動いてソワソワしてる男子に見つかるのも面倒くさいかと思って現状維持。
告白相手は誰だろうと思いつつ待つ事数分。やって来たのは幼馴染の宮本陽菜だった。
(ほーん。やっぱモテるんだ)
相手が分かったところでまだ食べていなかったカレーパンの袋を開ける。幼馴染とは言え人の恋路に口を出すつもりはない。俺の関心は目の前のカレーパンに移った。
「来てくれてありがとう宮本さん」
「うん。それでなんの用かな?」
そう言ったものの用件は分かっている。こんな所に呼び出したんだ。己惚れでなければ告白だと思う。
内心溜め息を吐きつつ相手の言葉を待つ。正直に言うと相手の名前も分からない。少なくとも自分と同じクラスではないだろう。
「宮本さん、君のことが好きだ。どうか俺と付き合ってほしい」
出てくるのは予想通り告白の言葉。私の言葉は決まっている。
「ごめんなさい。あなたと付き合うことはできません」
「そうか…理由を聞いても?」
「あなたのことをよく知らないので」
まだ入学して一か月ほど。新しく出会った人のことを理解するには短すぎる時間。ましてや私は相手の名前も知らないのだ。会話したこともないような人と付き合うつもりはない。
「…分かった。もっとお互いのことを理解してからもう一度告白することにする。まずは友達からでいいかな?」
「それならいいよ。よろしくね」
「ああ、今日は来てくれてありがとう」
そう言って立ち去って行く彼の背中を見ながら安堵する。
「無理矢理迫ってきたりすることがなくてよかった…」
昔から何度か告白されたことはあるが中には無理矢理迫ってくる人もいて少しトラウマになっている。当時評判の良くなかったその人に呼び出された時は幼馴染達が近くに隠れていてくれて大事には至らなかった。
「あの口振りだと積極的に話しかけてきそうだな…」
そう考えると憂鬱になる。もともと人見知りだった私はイジメられてから幼馴染達にべったりだった。今では初対面の人とも話をすることが出来るが、精神的に疲れる。
一息吐きつつ大きく育った自分の胸を見下ろす。大きくなり始めてから色んな人に見られるようになった。今告白してくれた人もチラチラ見ていた。男の本能だと分かっていても気分は良くない。
(蓮夜君も興味がない訳ではないのが救いだけど…)
疎遠になってしまった思い人の事を考える。意識してもらおうと押し当てたこともあったがその度に瑠璃ちゃん(Bカップ)に睨まれたものだ。
昔を懐かしみつつ教室に帰ろうとすると先程の場所から死角になるような位置に人がいることに気付いた。
(聞かれてたかな。恥ずかしい…)
さっさと帰ろうとするがその人が誰か気付いて足を止める。
「蓮夜君?」
「蓮夜君?」
バレた。気まずい…。
「聞いてしまったのは悪かったが、先にいたのは俺だからな」
開口一番無罪アピール。小物臭がすごい…。
「それはいいんだけどこんな所で何してるの?」
いいのかよ。大物だな。
「静かな所で昼メシ食べていただけだ」
そう言うと宮本は憐れむような視線になった。
「イジメられてるの?私が一緒に食べようか?」
ぼっちメシしてると思われたらしい。いや、一人で食ってるけど別にイジメられてないから。
「そうなんだ。よかった」
そう言って微笑む宮本。昔イジメられてたからイジメには敏感なのか?口には出さないが。
「隣失礼するね」
そう言って隣に腰を下ろす宮本。幼馴染とはいえ無防備すぎん?ここ人通りないよ?
「よく知らない人に告白されても困っちゃうよね」
「自慢か?」
そんな事言われると俺も困るんだが?あと何気に酷いな。
「そうじゃなくて誰かに相談したかったの」
「俺に相談されても困るんだが?」
「あの人これからも話しかけてきそうだし、ちょっと怖いっていうか…」
「無視ですか」
話聞けよ。マイペースに話し続けるなや。諦めて溜め息を吐く。最近溜め息ばっか吐いてるけど俺の幸運は残っているのだろうか?
「それに告白してる時も胸をチラチラ見ていたし…」
そりゃそんな大きな物がぶら下がってたら見るだろう。男の本能だ。まあそこは置いといて。
「誰だって最初は知らない奴だろう。話をしてみるといい奴かもしれないぞ」
「むー!蓮夜君は私に彼氏ができてもいいの?」
「俺が口を出すことでもないだろ」
そう言って立ち上がる。
「あっ…」
か細い声が聞こえたが無視して歩き出す。何が話したらいい奴かもしれないだ。信じる事をやめた俺が偉そうに何を言ってやがる。
そう俺は自分を嘲笑った。
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