第10話 時は止まらない、戻らない、ただ進む

 一日のお勤めが終わり現在帰宅中。本日も昨日行った喫茶店に行ったが、毎日夕食まで食べているとすぐに小遣いがなくなるので今日はコーヒーのみ。


 中学の時の件で慰謝料を貰ったけど金銭感覚がおかしくなるから基本的には使っていない。



 学生らしくバイトでもしようかしらんと考えながら茜色に染まる街を歩いていると知った顔を見つけた。向こうも気付いたのかこちらに走ってくる。


「よう蓮夜、今帰りか?」


「そうだ」


 わざわざ走ってきて声をかけてきたのは幼馴染の一人、相川巧真だ。短い髪を逆立たせて爽やかそうな顔をしている。まあ男の見た目などどうでもいいか(辛辣)


「高校はどうだ?うまくやれそうか?」


「お前は俺の親か」


 なんでそんなことを聞くんだ。お前のキャラじゃないだろう。


「幼馴染の中で俺だけ別の高校だからな。気にはなるだろ」


「そういうものか。まあうまくやってるよ」


 なにをもってうまくやってるのか知らんが。


「ならよかった。そういや同じくらいの帰宅時間ってことは蓮夜も部活帰りか?ちなみに俺はサッカー部だ!」


「いや、喫茶店に寄ってただけだ。俺は帰宅部だ」


「…サッカー部じゃないのか?」


「サッカーはもうやる気がない。藤林にも言ったがな」


 藤林といい相川といいなんで俺がサッカーをやると思ってるんだ。もう興味ないわ。


「なんでだよ。お前と国立をかけて試合をしたかったのに」


「またこの説明すんの?」


 もう藤林に説明したからよくない?国立目指して頑張ってください。


「もういいか?じゃあな、国立目指して頑張れよ」


 まだ何か言いたそうにしている相川に手を振って家に向かう。中学生の時はいつか国立のピッチに立つことを夢見たものだがそれも過去のこと。今はそんな気は微塵もない。






「高校生になればもしかしたらと思ったが、ダメか…」


 俺、相川巧真は去っていく蓮夜の背を見ながらそう呟く。


 俺の大事な幼馴染は変わってしまった。蓮夜を信じきれなかった昔の自分には今でも腹が立つ。


 中学生の時はあいつが司令塔で俺がストライカー。二年生の時はそれで全国まで行ったが、三年生の時にはあいつの姿はなく、チームもあいつの事を引きずり県大会止まりだった。


 蓮夜は中学二年生でサッカー部を退部したが、傷付けたチームメイトのいない高校でならまたサッカーを始めるかもしれないと思っていた。


 俺は頭が良くないから蓮夜を追いかけて行った幼馴染達と違って同じ高校に行けず、せめてライバルとして同じピッチに立ちたかったがそれも望み薄になってしまった。


 あの毎日が輝いているように思えた日々は過去の物となり、今は毎日が色褪せたように感じる。


 できることなら過去に戻ってやり直したい。だが時は止まらない、戻らない、ただ進む。






 たとえどんなに過去に戻りたいとしても。

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