第42話 懐かしく思う日が来るのだろうか?

「どう?この水着」


「セクシー(笑)」


「グーでいくわ」


 照りつける太陽に波の音、砂浜で追いかけっこしてるクラスメイト達。なぜ俺はこんな所にいるのでしょうか?





「蓮夜、遊びに行こうぜ!」


 楠木家での出来事から数日後、そう西条に誘われた。大槻達との会話で少し気疲れしていたので気晴らしになるかと思って財布だけ持ってほいほい着いて行ったらなぜか砂浜に立っていた。


 俺は財布しか持ってきてないんだけど?海に行くならそう言えよ。目的地が海だと知ってたら来なかっただろうけど。


「水着はあそこの売店で売ってるぞ。タオルなんかは貸してやるから」


「まあ海なんて久しぶりだからどうせ水着を買うことにはなってただろうが…」


 海に来るのも久しぶりだ。中学生の頃は部活で忙しくて来れなかったから小学生の頃以来か?


 女と違って男の水着なんてどこで買っても同じだろう。自分に合ったサイズの中から適当に選んで買い、さっさと着替える。流石に私服のままだと暑い。


「月読君っていい体してるねー」


「本当だ。帰宅部には見えないね」


「ヤらないか?」


 今は帰宅部でろくに運動していないから多少は衰えているだろうが、中学時代に鍛えた体はそれなりに引き締まっていると思う。だがこのまま運動しないままだといつか弛んでくるのだろうか?ランニングくらいはしようかな?


 なんて思うだけで実行しないだろうけど。三日坊主にすらならなそう。あと最後のは誰だ。


 




 その後は至って普通に海で遊んだ。特別なことは何もなく、海で泳ぎ、砂浜ではしゃぎ、海の家で昼食。日記に海で遊んだと書いたが、実際に海に行く事になるとは思わなかった。



 そうして今は街に帰ってきて適当な店で晩ご飯を食べている。



「楽しかったねー」


「みんな日焼けしちゃったね」


「本当だ、真っ黒」


 クラスメイト達は各々注文した物を食べながら今日の思い出を語り合っている。一度しかない高校一年生の夏休みにクラスメイト達と海に行き遊んだ。ありふれているとは言え間違いなく青春の一ページ。いつか今日のことを懐かしく思う日が来るのだろうか?





「マジ?蓮夜ってもう夏休みの課題終わったの?」


「マジ。俺は長期休暇の課題はさっさと終わらす派だ」


 最初に頼んだ物はみんな食べ終わったが、デザートやドリンクを追加注文しつつ寛いでいる。まだまだみんな帰るつもりはないようだ。


「だからって日記まで終わらすのはどうなんだ?」


「それを言うなら最終日にまとめて書くのも日記としてどうなんだ?」


「違いない」


 弛緩した空気の中そう西条とたわいも無い話をする。高校生になってからこうして誰かと出かけたり、言葉を交わすことが増えた。痴漢と疑われ、あのニュースを見て以来誰かと信頼を築く必要はないと思っていた。今でもそう思っている。


 当たり障りのない関係を築ければそれでいい。そう思っていたはずで、会話は事務的で本ばかり読んでいる。そういう生活をしていたはずだが最近は誰かとこうして言葉を交わし、出かけることが増えた。


 これはどういうことだろう?単に絆されたのか、それとも本当は仲良くしたいのか。この変化は良いことなのか、悪いことなのか。考えたところで俺に分かるはずもない。ならいいかと思考放棄した所でふとニュースを流していたテレビの音が耳に入る。




「自殺だって」


「なんで自殺なんかするのかな?」


 俺以外にもテレビを見ていた者はいる。自殺というニュースを見て少し眉を顰めるもののそれだけだ。当たり前だろう。自分に関係がある者が自殺したわけでもなし、年間何万人と自殺する人達がいるこの国では珍しいことでもない。


 俺も特に何かを思うこともなかっただろう。本来なら。


「どうした蓮夜?」


「………」


 西条が声をかけてくるが、俺の目はテレビの方を向いたままだ。


 自殺したのはイジメに遭った学生でも人生に疲れたサラリーマンでもない。珍しい部類だろうがそれだけなら明日には忘れるだろうし、他のみんなも同じだろう。だが俺の目はテレビから離れない。




「自殺したのは元スポーツ選手の…」




 自殺したのはかつて浮気しているとニュースになり、俺が人と信頼を築くのをやめようと思うきっかけになった人物だった。

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