第50話 知らない天井だ……
「知らない天井だ……」
いや、もう何回か見てるけどね。この病室で初めて目覚めた時に言えばよかったけど言えなかったからな。
マジで知らないところで目を覚ますと状況を把握するのに精一杯でそんなこと言う余裕なんてなかったし。俺は記憶喪失でもあったし尚更だ。
そう、あの記憶喪失だ。漫画やドラマでよく見るけどまさか自分が記憶喪失になるとは思わなかった。俺は全ての記憶を失ってる訳じゃなくてここ二年程の記憶らしいけど。
エピソード記憶だとか意味記憶だとか長期記憶だとか海馬には二年分の記憶があるだとかいろいろ説明されたけどよく分からん。
目が覚めたら二年後の世界ってなんの冗談だ。二年後にシャ○ンディ諸島で!って約束でもしたのか。今の俺から見たらの話だが。浦島太郎もこんな気持ちだったのかねぇ。
まあ浦島太郎と違って竜宮城みたいに別の所にいた訳じゃなく、他の人達と同じ所で生活していた点は違うか。俺が覚えてないだけで俺が生活していた痕跡やら影響やらはあるのだし。
「おはようございます、月読さん。あらかじめ伝えていた通りこの後担当医と面談していただき、問題がないようであれば退院できますが体調はいかがでしょうか?」
「大丈夫です」
俺の体は成長しているから玉手箱はいらんななどと考えていると看護師さんがやってきた。目が覚めてから数日が経っているが、検査しても記憶がない以外は軽症だったから退院することになった。病室でじっとしているより普通に生活している方が記憶も戻るだろうしね。
「お世話になりました」
「いろいろ戸惑うことが多いとは思いますがお大事になさってください」
その後担当のお医者さんとの面談を終え、迎えに来てくれた家族と一緒に帰った。見舞いに来てくれた時もそうだったが、俺がここ二年くらいの記憶を失ったからか両親も咲夜も俺にどう接したらいいか戸惑っている様子だった。少し寂しい気もするが、俺が逆の立場だったら確かにどう接するべきか分からないだろうから気にしないことにする。
「兄さん、本当にここ二年程のことを覚えていないんですか?」
「ああ、覚えていない」
家に帰る途中の車の中で咲夜がそう聞いてくるが実際に覚えていない。というか記憶にある咲夜とキャラが違い過ぎるんですけど。ここ二年の間に反抗期が終わったのだろうか?俺が咲夜の変化に戸惑っていると咲夜は恐る恐るといった風にさらに聞いてくる。
「……あの事件のこともですか?」
「事件?」
何か事件に巻き込まれたのだろうか?
「いえ、覚えていないならその方がいいのかもしれません…」
そう言われると気になるんですが。まあ嫌なことがあってそれを忘れたのなら忘れたままの方が幸せか?咲夜も言いたくなさそうだから深く追求するのはやめとくか。知りたくなったら調べればいいか。事件って言うなら調べればすぐに分かるだろ。
その後は特に会話することなく家に帰った。
「ここが俺の部屋……?」
家に帰り自分の部屋に入ると本当に自分の部屋か疑問に思ってしまった。リビングなんかも自分の記憶とは物の配置が違ったりしたが、二年もあれば多少は変化するかとあまり気にならなかった。だけど自分の部屋はかなり様変わりしてしまっている。
「いつの間に俺は読書家になったんだ?」
部屋の中は本でいっぱいだった。床が抜けたりしないだろうな?これだけあればかなり重量あるだろ。
床が抜けないか不安になりつつも部屋を物色する。かなり変化しているが俺の部屋で間違いはなさそうだ。物の配置も俺好みだし、パソコンのロックも俺ならこういうパスワードにするだろって何通りか入力したら解除できた。読書家になったとはいえ癖なんかは変化していないらしい。
「サッカー関係の物や飾っておいた小物なんかは無くなってるな」
高校では部活に入ってないみたいだし、挫折でもしたのだろうか?小物も部屋に入りきらなくなって倉庫にでも移したか?
「日記でもあればよかったんだがな…」
日記があれば記憶を失った期間に何があったか、それに対してどう感じたか分かるかと思ったがそう都合よくはいかないらしい。日記を書く習慣なんかなかったから当たり前だが。
「この日記は当てにならんし…」
夏休みの課題の日記はあったが当たり障りのないことやネタしか書いてない。何故か夏休み最終日まで書いてあるし。
「しょうがないからあいつらに聞くか…」
幼馴染達には今日退院だと伝えてある。毎日のように見舞いに来てくれたんだ。礼を伝えなければと思っていたし、遊びにでも誘うか。
俺はスマホで連絡を取ろうとしたが、アドレス帳には見覚えのない名前も多い。高校のクラスメイトだろうか?あいつらに聞いて分かるかな?
「聞くことが多そうだなぁ」
とりあえず家族にも話を聞いてみるか。学校関連のことはともかく家の中でどう過ごしていたかは分かるだろ。
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