第49話 何年の何月何日?
病室のベッドの上に頭に包帯が巻かれた蓮夜が眠っている。呼吸は安定しており、包帯さえなかったら普通に眠っているだけに見える。
「………」
夏祭りから早くも三日が経過した。あの日蓮夜は私達を庇って事故に遭い、まだ目を覚さない。
あの車の運転手は夏祭りで酒を飲んだにも関わらず自分で車を運転して帰ろうとしていたらしい。まごうことなき飲酒運転だ。許せるはずがない。
寝ている蓮夜を見てみると骨折等の酷い外傷は負っていない。けれど頭を強く打ったようで後遺症が残る可能性もあると聞いた時には罪悪感で押し潰れそうになった。
なぜもっと周りに注意していなかったのか、なぜ体が固まってしまったのか、なぜ夏祭りに行ってしまったのか。後悔ばかりが胸を締め付ける。
近づいてくる車にもっと早く気付いていれば避けられた。気付いた時に二、三歩下がるだけで避けられた。そもそも夏祭りに行かなければ蓮夜が事故に遭うこともなかった。
後悔したところで過去は何も変わらない。中学生の時に散々思い知ったけどそれでも後悔せずにはいられない。
蓮夜が事故に遭った日から私は毎日お見舞いに来ている。今は私しかいないが陽菜や巧真も毎日来ているようでここで顔を合わせることもあった。それに蓮夜の家族とも。
合わせる顔がなかったけど蓮夜の家族にはもちろん謝罪した。私は罰して欲しかった。糾弾して欲しかった。しかし彼らは私を責めるようなことをしなかった。むしろ「瑠璃ちゃんもつらいでしょう?無理しないでね?」と気を遣ってくれた。咲夜ちゃんも私を睨むことはあっても何も言わなかった。
責めてくれた方が気は楽だった。だけど誰も私を責めてくれない。
「蓮夜は私を責めてくれる…?」
壊れ物に触るかのように蓮夜の頬に触れる。ちゃんと体温があることにほっとする。生きていることは分かっているがもし冷たくなっていたらと思うとぞっとする。
生きてるいることを確かめるように何度か顔をなぞっているとふいに蓮夜の瞼が動いた。思わず手を引っ込める。
「蓮夜…?」
声をかけてると蓮夜がゆっくりを開いていった。
「蓮夜!よかった…。本当にごめんね、私のせいで…」
蓮夜が目を覚まして安堵していると蓮夜は何度か瞬きし、顔を動かして辺りを見回した。
「あまり動かないで蓮夜。すぐにお医者さん呼んでくるから」
目を覚ましたばかりで混乱しているだろう蓮夜に声をかけて医者を呼びに行こうと立ち上がる。すると辺りを見回していた蓮夜がこちらを向いた。
「瑠璃…?」
「えっ?ええ、そうだけど……蓮夜?」
久しぶりに下の名前で呼ばれた。あの日から苗字で呼ばれていただけに戸惑ってしまう。
「ん〜?なんで俺はこんなとこで寝てんだ?ここって病室だよな?まあよく分からんがおはよう瑠璃」
「ッ!」
なんで病室で寝ているのか分からない様子なので記憶が混乱しているのかと考えていると蓮夜が笑顔でこちらに挨拶してきた。ここ二年くらい蓮夜はずっと無表情だった。あの日以来蓮夜の笑顔を見た覚えはない。それがなんで今になって突然…?
「瑠璃は俺がこんなとこで寝てた理由を知ってるか?というかなんか少し大人びた?」
「蓮夜は私と陽菜を庇って事故に遭ったのよ。遅くなったけど助けてくれて本当にありがとう」
「事故?だから病室で寝てたのか。俺が大事な幼馴染である瑠璃や陽菜を庇うのは当たり前だろう。覚えてないけど」
「覚えていない?」
大事な幼馴染と言ってくれるのは嬉しいが、よくやった俺!って自分を褒めてる蓮夜の発言が気にかかる。
「ねえ蓮夜、事故に遭ったことを覚えていないの?夏祭りに行ったことは?」
「夏祭り?事故に遭ったことも覚えてないし、夏祭りもまだ先じゃないのか?」
事故の影響で記憶が少し飛んだのだろうか?夏祭りに行ったことも覚えていないらしい。
「夏祭りの帰りに事故に遭ったのよ。頭を強く打ったようだしその影響かしら?蓮夜の最後の記憶っていつ?」
「だから頭に包帯が巻かれてんのか。ん〜?最後の記憶……部活?」
「部活?」
蓮夜は高校では部活に入っていないはず。いつの間にか入っていたのだろうか?
「なんか記憶が飛んでる気がするけど部活中に巧真と話してたのが一番新しい記憶だと思う」
「それって……」
巧真は別の高校に通っているから蓮夜と同じ部活に入ることはあり得ない。蓮夜と巧真が同じ部活だったのは……。
「……蓮夜、その日って何年の何月何日?」
「確か…」
蓮夜が口にしたのは二年以上前の日付。蓮夜はここ二年程の記憶を失っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます