第4話 今日も私の声は届かない
蓮夜に痴漢されたとされていた女子生徒が捕まった。どうやら遊び感覚で友人と一緒になってやっていたらしい。理由などどうでもいいがそのことを聞いた私は血の気が引いた。
(蓮夜はやっぱりやってなかった!それなのにあんなことを言ってしまうなんて!)
冤罪だったことが分かったので多くの人が蓮夜に謝罪していた。サッカー部のみんなからも謝罪され、部活に戻ってくるように説得されていたが、ブランクがあるし受験勉強に集中したいと断っていた。
蓮夜は謝罪を受け入れていたし、怒っているようにも見えなかったが、それだけだった。話しかければ普通に受け答えするが、表情が変わることはなく、自分から話しかけることもしない。誰に対しても同じように接する。私達幼馴染に対しても。まるで他人のように。
私は事実を知った日に蓮夜の部屋に押し掛けて謝った。許してもらえるなら、前みたいに戻れるなら何だってするつもりだった。殴られてもよかったし、体を要求するなら喜んで捧げるつもりだった。
謝罪はあっさりと受け入れられた。だがそれだけだ。何も要求されなかったし、昔みたいに笑いかけてくれることもなかった。私がしたことに怒っているのかと思ったが違った。私に対して何の感情も抱いてないだけだった。何度謝っても既に私を許していて、その上で何の感情も抱いてない蓮夜の態度は変わらなかった。謝って、許して、そこで終わり。昔みたいに戻りたくても、蓮夜が昔のようにならなければ叶わない。赤の他人、クラスメイト、幼馴染、家族、誰に対しても同じように接するようになった蓮夜の心に私の言葉は届かない。
孤立している時と同じように読書ばかりしている蓮夜を遊びに誘っても、表情一つ変わらない。それどころか読みたい本がある時は断られる。蓮夜にとって十年以上の付き合いの幼馴染は読みたい本以下の他人と同じ存在になっていた。
このままの関係で終わるのが嫌で、蓮夜のお母さんに蓮夜の志望校を聞いて、私ともう一人の女の幼馴染と一緒に追いかけてきた。(もう一人の男の幼馴染は学力的に無理だった)
クラスメイトとサッカーに関して話しているのが聞こえてきた時は、昔みたいに戻るのではないかと期待したけどダメだった。
「さみしいよ、蓮夜…」
今日も私の声は蓮夜には届かない。
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