第31話 俺には分からない

「そろそろみんなの所に戻ろうか。結構時間経っちゃったし」


「そうだな」


 お茶を用意すると言ってからそれなりに時間が経っている。まあもう勉強する雰囲気でもなかったし別に構わないだろう。  


 そう思いつつお茶とお菓子を持ってリビングに戻る。


「おっ、戻ってきたな」


「私喉乾いたー」


 ゲーム機を起動させていた西条達が声をかけてくる。まだ遊んでなかったのか?


 タイトル画面を横目で見つつテーブルにお茶とお菓子を置く。


「ありがとう蓮夜。いただくわね」


 勉強道具を片付けていた藤林が寄ってきてお茶を手に取る。それなりに時間が経った割には俺と佐々木が部屋を出る前と変化が少ない。


「俺達が席を外してから何かしてたのか?」


「えっ、な、何もしてないわよ」


 なぜそこで挙動不審になる。そして何もしてないのもどうかと思う。


「その割には片付けもしてないし、ゲームもまだしていなかったみたいだが?」


「いやー何のゲームするかで揉めてなぁ」


「そ、そう!何のゲームするかみんなで話してたのー」


 西条と木下がそんなことを言ってくるが何故か気不味そうだ。さては俺と佐々木の話が聞こえてたな。


 俺はともかく佐々木は大きな声を出していたからな。そりゃ聞こえるか。別に気を遣う必要はないのに。


「…蓮夜?」


 話を聞かれていたとしても俺は気にしない。だから下手に気を遣われるほうが嫌なんだが…まあそれも難しいか。


 気を遣って聞いてないフリをしてくれてるのかもしれないが、内心溜め息が出る。


 世の中は嘘をつくことに批判的だが、建前、社交辞令、お世辞、冗談なんかも言い方は違うが嘘と同じようなものだろう。嘘と同じとは極論かもしれないが、本音を言っていないという点では同じである。


 本当に思ったことだけを言っていると相手に良い感情を持たれない。それでは世の中やっていけない。だから社交辞令やお世辞で言葉を飾る。そう考えると言葉というのはなんと薄っぺらいものだろうか。


 仲良く話していた相手が裏では陰口を言っている。そんな話はどこにだってある。面と向かって話していても相手が内心どう思っているかなんて当人しか分からない。


 自分が捻くれているのは自覚しているが、物語の登場人物みたいに相手に全幅の信頼を置くなんてのは到底無理な話だ。


 円滑な人間関係の為とはいえ世の中は嘘で溢れかえっている。自分では吹っ切れたつもりだったが、かつて幼馴染達が信じると言いつつ内心疑っていたことを未だに引きずっているらしい。


 自分もまったく嘘を言わないかと言われるとそんなことはないので責めるつもりはない。というか嘘をつかない人間なんていないだろう。




「今日は楽しかったねー」


「勉強も捗ったしな!」


「後半は遊んでただけじゃない…」


「前半は真面目に勉強したし、まだテストまで時間あるからまだ大丈夫じゃない?」


「また勉強会しない?」


「機会があればやるかー」


「みんなまた来てね」


「今日はありがとな」


「それじゃあまた学校で」










 この会話が本心なのか社交辞令なのか俺には分からない。

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