第26話 このリハクの目を(略)

「ねむ…」


 諸事情で寝不足の俺は欠伸を堪えつつ教室に向かう。授業中に寝てしまいそうだなと思いつつ教室に入ったらすでに登校していたクラスメイトが一斉にこちらを向いた。なんだなんだ?


「あっ…蓮夜…」


「蓮夜…すぐにきれいにするからあまり気にするなよ…」


 何故か俺の机をタオルで擦っていた藤林と西条が話しかけてくる。なんのこっちゃと思ったが机を見て疑問が解消した。




 俺の机は痴漢、犯罪者等と落書きされていた。




 まさかとは思ったが高校生にもなってこんな幼稚なことをする奴がいるとは…。思わず溜め息が出る。


「蓮夜…私は味方だからね…」


 俺が落ち込んでると勘違いしているのか藤林が慰めようとしてくる。


「ちっ、誰だこんなことしやがったのは!」


 西条も憤っているが、そんな二人を気にせず席に着く。


「まあ落ち着けよ。そろそろホームルーム始まるぞ」


「なんでそんなに落ち着いてるの蓮夜⁉︎」


「そうだぞ蓮夜!こんなことされて悔しくないのか⁉︎」


 なんで自分がやられた訳でもないのにヒートアップしてんの君ら?


「落ち着けって。驚いてはいるぞ?高校生にもなってこんなくだらんことする奴がいることに。それに机に落書きされたところで実用的に困るわけでもないし」


 これが教科書などなら困るが机なら普通に使うだけなら影響はない。


「だからってこのままでいいのか?絶対にまだ何かしてくるぞ?」


「そうよ蓮夜。心配よ」


 西条の言う通り俺をイジメの対象にしたのならこの程度で済むはずがない。他にも何かしてくるだろう。


「確かにこれ以上何かされたら困る。されたらな。まあ大丈夫だろ」


 納得がいっていない西条や藤林を尻目に教室の後ろを見る。俺が前に見た時から特に変化はない。


「?何を見てるの蓮夜?」


「なんでもない」


 俺の視線に疑問を持った藤林が聞いてくるが適当に誤魔化す。


「ホームルーム始めるぞー。席に着けー」


 まだ何か言いたそうな藤林と西条も担任教師がやって来たので席に着く。今日は確か三限に移動教室があったな。


 点呼を取る担任教師の声を聞きながら今日の予定を決めていく。今日からゆっくり眠れるといいが…。












 放課後になるとさっさと教室を出て別のクラスの教室の目指す。廊下で少し待っていると目当ての生徒が出てきたので声をかける。


「よお。少し話があるんだが」


「…月読?お前が俺に何の用だ?」


「ここじゃ人目が気になるから場所を変えようぜ」


「……悪いが今日は予定が「いいからツラ貸せ。な?」」


 予定があると言って俺の誘いを断ろうとした男子生徒の声を遮る。俺は今日中に終わらせたいんだよ。


「………分かった」


「じゃあ行くか」


 そう言って誰もいない空き教室に二人で向かう。









「それで?俺に何の用だ月読?」


「まずはこいつを見てくれ」


 教室に入って早々に男子生徒がイライラしながら話しかけてくる。俺も無駄話をする気はないのでさっさと本題に入る。持ってきたカバンからビデオカメラを取り出し、映像を見せる。


「なっ…!」


 そこには俺の机に落書きする目の前の男子生徒が映っていた。


「こんな物をどこに…」


「教室の後ろにある掃除用具入れの上にバケツや雑巾を積んだ山でカモフラージュして置いておいた。念の為に仕掛けておいたがまさか使うことになるとは」


 読めなかった!このリハクの目を(略)


 高校生になってまでこんなくだらんことする奴いるんだな。俺自身に絡んできた場合に備えてボイスレコーダーを常に持ち歩いていたがそちらの出番はなかった。


 三限の移動教室の時に体調が悪いと言って一旦保健室に行き、誰もいなくなってから教室に戻って映像を確認した。その後映っていたこいつがどのクラスか突き止めたが、時間がかかったせいで放課後になってしまった。


 だがなんとか放課後までに間に合ってよかった。毎日放課後や早朝の誰もいない時間にバッテリーを換えるの面倒だったんだよね。おかげで寝不足だ。今日からゆっくり寝れる。


「くっ…」


 呻きながらこちらに一歩踏み出す男子生徒。それを牽制するように声をかける。


「当然ながらバックアップはとってある。だからこのビデオカメラを壊したところで無駄だ」


「ちっ!」


 舌打ちしながらもそれ以上近づいてこないことを確認して話を続ける。舌打ちしたいのはこっちだ。無駄に手間暇かけさせやがって。


「今回は見逃すが次に俺自身、もしくは俺の所有物に何かした奴がいたらこの映像を実名と学校名を添えてネットに流す」


 まあこいつの名前知らないんだけどね。


「なっ…やめろ!」


 ネットに流すと言われて焦っている男子生徒。なら最初からすんなよ。思わず溜め息が出る。


「別に陰口たたくくらいなら気にしなかった。だが物理的に何かしてくるなら話は別だ。どうせ次は物を隠すとかカツアゲしたりするんだろ?そいつは困るんだ」


「………」


 図星なのか男子生徒は黙っている。イジメってのもワンパターンだよな。


 宮本がイジメられていた時も似たような手を使ったがこういう奴等は証拠があれば黙る。


「さっきも言ったがこれ以上何もしないなら俺も何もしない。もう関わることもないだろう」


「……分かった」


 俺が何もしないって言ったからか疑いつつも安堵している男子生徒。そのまま教室を出ようとしているがまだ話は終わってないぞ。


「ちゃんと理解してるか?俺はお前じゃなくても俺か俺の物に何かした奴がいたら映像を流すって言ったんだぞ。他に俺にちょっかいを出そうしてる奴がいたらちゃんと止めろよ」


「なっ…それは俺に関係ないだろ!」


「それだとお前が他の奴にやらせるかもしれないだろ?それにどうせ既に誰かしらと共謀してるんじゃないか?」


 イジメってのは単独じゃなくてグループで行うイメージがある。敵を一人作ってグループ内の結束を強めたり、俺はこれをやったから次はお前がこれをやれみたいな遊び感覚で行うとかな。


 くっだらねぇー。


「………」


「しっかりお友達に頼んどけよ?映像を流されたら困るから僕の為にこれ以上何もしないでってな」


「………」


「じゃあな」


 黙ったままの男子生徒の横を通り過ぎて教室を出る。












 まったく…無駄に時間使わせやがって。この程度の小細工で黙るなら最初からするなよ。そんなに暇なのか?

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