第44話 未来の俺に任せよう

 彼は過去のことが明らかになったせいで嫌がらせを受けた。なら俺のことを知ってる人間が誰もいないとこに行けばいいのでは?俺のことはニュースにはなったが名前は出てないので遠く離れた所にいけばそれで済むかもしれない。




 コンコン。


「蓮夜、少しいいか?」


 俺がそんなことを考えていると部屋の扉をノックされ、声をかけられた。しばらく声を聞いてなかった人物だ。


「何か用?父さん」


 扉を開けた先にいたのは元々社畜だった上に単身赴任になってほとんど顔を合わすことがなくなっていた父さんだった。いつ帰って来てたんだろう?


「大事な話がある。母さんや咲夜も待っているからリビングに来てくれないか?」


「分かった」


 家族会議なんていつ以来だろうか?そもそも四人で顔を合わせるなんて久しぶりじゃないか?


 父さんの後について行きリビングに入ると既に母さんと咲夜が椅子に座っていた。母さんは既に話を聞いているのか普段通りだが、咲夜は不安そうだ。


「まずは謝る。仕事にかまけてお前達を放ってばかりで悪かった」


 椅子に座った父親の最初の一言目は謝罪だった。


「仕事が忙しいのは理解してるし、養ってもらってるんだから文句はない」


「……そうですね」


 これは本音だ。養ってもらってるし、もう高校生なんだから寂しいとは思わない。だが咲夜の反応はイマイチだ。実は寂しかったりするのだろうか?


「それでもだ。それで本題なんだが…」


 そこまで言って言い淀む。言いづらそうにこちらの顔色を伺っているようだがどうせ言うならさっさと言ってくれん?


「まだ先の話だが本社に異動が決まった。それに伴って役職も上がる」


「……おめでとう?」


 栄転じゃん。なんで言い淀むんだ?つーかこんな時期に異動命令とか出んの?


「本社勤務で次に上がった役職だと部署の異動はあっても勤務地の異動はなくなる。本当は良くないんだが、こんなに早く教えてくれるのはその為だ」


「ああ、成る程」


「……どういうことですか?」


 なんとなく察した俺と違って咲夜はまだ理解してないようだ。いや、理解したくないのか?


「本社は通えるような距離にはない。だから引っ越すことになる。母さんは今の仕事を辞めて俺に着いて来てくれるそうだ。……お前達はどうする?」


 本社があるのはここから遠く離れた県外。そこなら俺のことを知ってる人間はいないだろう。




 これって引っ越せという天啓では?




「実際に異動になるのは来年の四月からだ。だから俺達に着いてくるようなら咲夜は異動先の近くの高校を受験してもらえばいいが、蓮夜は編入という形になる。だから蓮夜には編入試験を受けてもらうことになる。せっかく受かった高校を一年で転校することになるのは申し訳ないが」


 新しい環境に慣れてきた辺りでまた別の環境に放り出されるのは面倒くさいな。あと編入試験ってどのくらいのレベルなんだろ?普通の入試より難しい気がするけど。


「こちらに残りたいならそれでもいい。友達もいるだろうしな。親元から離れて生活するには少し早い気もするが、お前達なら大丈夫だろう。今まで余り家にいなかった俺にそんなことを言う資格はないだろうがな」


 父さんはそう言って自嘲するように笑う。母さんも申し訳なさそうな顔をしている。


「………」


「どうしましょうか、兄さん…」


 どうしようか考えていると先程からこちらをチラチラ見ていた咲夜に声をかけられる。咲夜はどうしたいんだろう?


「まあ今すぐに決める必要はない。実際に異動になるのは来年だ。受験の応募期間までに決めてくれればいい。よく考えてくれ」


 父さんがそう締め括って家族会議は終わった。どうすっかなー、さっきは俺のことを知ってる人がいないとこに行くのもいいかもしれないとは思ったが、新しい環境で生活するのもそれはそれで面倒くさい。


 こうなればいいなぁと考えていたのに実際にその選択肢が目の前に現れると躊躇するのはなんでなんだろうな?



 まあまだ時間はあるし今すぐ決めなくてもいいか(思考放棄)




 未来のことは未来の俺に任せよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る