第29話 ちゃんと勉強会してる…(午前中だけ)

 本日は西条が主催の勉強会だ。今更だが参加メンバーやどこでやるかということを知らんな。まあ勉強するだけならどこだって変わらないか。そう思いつつ集合場所へ向かう。


「おはよう蓮夜。今回は素直に来たな」


「前みたいに何度も電話されたくなかったからな」


「おはよう蓮夜」


「おはよう藤林」


 挨拶しつつ集まっている面々を見回す。男女三人ずつか。クラスでも割と話すメンバーだな。噂話が広まった時は話しかけてくる奴は減るだろうと思ったがそうでもなかった。特に西条や木下なんかの陽キャはよく話しかけてくる。


「これで全員か?どこでやるんだ?」


「僕の家だよ。うちのリビングは広いからね」


「佐々木の家か」


 佐々木とは球技大会の後からたまに話すようになった。自分で言うのもなんだが佐々木の後釜に俺が入って試合に勝ったからいい感情は持たれていないかと思ったが、むしろお礼を言われた。


「自分の力で勝てなかったのは残念だけど、あんな奴等に負ける方が我慢できないからね」


「そういうものか」


「あのまま僕がケガしなかったら勝てなかっただろうし」


 そう言って笑う佐々木の目にはなぜか諦観が見えた。


「………?」


「さあいつまでも突っ立てないで僕の家に行こうか」


 なぜそんな目をするのか分からないが、俺から視線を外しみんなを促したので理由を尋ねることはなかった。














 佐々木の家に着いた俺達はリビングに通され、各々好きな位置に座る。


「それじゃあ早速勉強するか!」


 西条の声に従ってそれぞれが勉強道具を取り出す。俺も勉強道具を取り出しイヤホンを耳に着ける。今日は苦手な数学からやるか。


「って何イヤホン着けてんだよ!」


 俺が曲を選択しているとそれに気付いた西条にイヤホンを取られた。何をする。


「何をするじゃねぇよ!何イヤホン着けながら勉強しようとしてんだよ!」


「いや、他の人が立てる音って気になるじゃん?」


 俺は音楽なんかは気にならないが、他人が立てる不規則な音はすごく気になる。なんでだろうね?


「それじゃあ勉強会の意味がないだろう…。分からない所を聞いたりせずに一人で勉強してるだけなら集まってやる必要ないじゃん」


「そう言われるとその通りだが…」


 もともと参加する気なかったんだけど。まあここは主催者の言う通りにしよう。せっかくだし分からない所を聞いてみるか。












「そこはこの公式を…」


「作者が一番伝えたいことは…」


「この例文は…」


「………」


「………」


 勉強会は思っていたより真面目なものになった。苦手科目は得意な人に聞き、逆に得意科目は苦手な人に教える。どちらでもなければ黙って勉強する。ちゃんと勉強会してる…。


 そんな感じで午前中は真面目に勉強し、昼食を摂った後も勉強していたが、流石に時間が経つと集中力が切れてきた。


「なあ、結構勉強したしそろそろ遊ばね?」


「私も勉強飽きたー。遊びたーい」


 勉強に飽きた西条が提案し、木下が乗っかる。思ってたより勉強が捗ったが結局遊ぶんかい。


 他の面々を見ると苦笑しているが止めるつもりはないようだ。


「みんなでゲームでもしましょうよ」


「そうだな木下。何をする?」


 そう言ってゲームを漁る木下と西条。今日の勉強はここまでだな。


「あはは、それじゃあ僕はお茶の準備でもするよ。月読君、悪いんだけど手伝ってくれない?」


「ああ、いいぞ」


 佐々木にご指名を受けたので何のゲームをするかで盛り上がっている西条達を尻目に部屋を後にする。











「悪いね手伝ってもらって」


「気にするな。場所を提供してもらっているし、大した手間でもない」


 そう言いつつ人数分のお茶をお盆に乗せているとお菓子を持った佐々木が何か言いたそうにこちらを見ているのに気付いた。


「どうした?」


 そう聞くと佐々木は少し躊躇していたが、それでも俺と目を合わせて口を開いた。




「月読君はもうサッカーをしないの?」












 そう言った佐々木の目は諦観や失望、嫉妬や怒りなど色んな感情でごちゃごちゃしているように思えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る