第12話 殴りたい、この笑顔

 本日は土曜日、時刻は10時。学校は休みなので昼まで惰眠を貪るつもりだったのになんで俺はこんな所にいるのだろうか?



「おっ、来たな蓮夜。おはよう」


「てめぇ朝から何回電話かけてきやがる。あとおはよう」


 寝坊しちゃってみんなを待たせるのは申し訳ないから行くのやめるわ。ごめんね☆という風に済まそうと思ってたら西条が8時から何度も電話をかけてきて目が覚めてしまった。


「そうでもしなきゃ寝てただろ?」


 そう言って爽やかな笑顔を浮かべる西条。殴りたい、この笑顔。


「お、おはよう蓮夜」


「おはよう藤林」


 西条と話していると藤林が話しかけてきた。女性のファッションには詳しくないので具体的にどうこう言えないが、気合いを入れているのは分かる。西条もそうだが顔面偏差値が高い奴等は服装にもかなり気を遣っている。


(リア充は大変そうだな)


 そう思いはするが特に何かを言うこともなく最初の目的地に歩き出す。昔は服装を褒めたりしたが、今日はもう誰かが褒めただろうし別にいいか。






 西条君と並んで歩き出した蓮夜の後ろを付いていく。他の人達もいるとはいえ久しぶりに蓮夜と遊びに行くのだからと昨日二時間かけて選んだ服を着ているが、蓮夜は何も言ってくれなかった。


(昔は褒めてくれたのに……)


 何人ものクラスメイトが褒めてくれたが、一番褒めてほしかった人からの言葉はなかった。


(やっぱりもう私に興味ないのかな……?)


 昔なら蓮夜の隣を歩いていただろうにその位置に私はいない。


 まだ私と蓮夜の距離は離れたままだ。






 ずっしりとした重みのある物体を手に前方を睨む。そして手にした物体を勢いをつけて転がすと快音を立て前方にあったものはすべてなくなった。


「またストライクか。やるなぁ蓮夜」


「今日は調子がいいな」


 手を上げている西条の手に自分の手をぶつける。そして同じように手を上げているクラスメイトにも同様に。みんなノリがいいな。


「すごいね月読君!200超えてるよ!」


 そう隣にいる女子(名前知らない)がテンション高めに言ってくる。ボーリングなんて久々だがなかなか良いスコアが出た。


「私なんて月読君の半分以下になりそう…」


 そう別の女子が呟く。みんなのスコアを見てみると100を超えない人もちらほらいる。150を超える人は数人しかいなかった。


(西条は170、藤林は140と女子にしては高め。やはり顔がいい奴はなんでも出来るのか?)


 スクールカースト上位はなんでも卒なくこなすんだなと思いました。(小並









 隣のレーンで女子に挟まれている蓮夜を見る。一緒のレーンがよかったがくじ引きの結果、隣のレーンになってしまった。


「すごいね藤林さん。僕より良いスコアだよ」


「私なんてまだまだよ。私より高い人は何人もいるもの」


 隣に座った男子にそう答える。実際に男子だけでなく女子でも私より高い人もいる。


「それでもすごいよ。やっぱり素敵だな」


 そう言って笑いかけてくるクラスメイトの男子。(確か木村君)ちょっと頼りなさそうだけど童顔で優しげに笑う彼は一部の女子に人気が出そうだ。


(私は興味ないけど……)


 そう思いつつ再び隣のレーンを見る。


「……藤林さんって前から月読君と知り合いなの?」


 私の視線の先を追ったのかそう木村君が問いかけてくる。まぁ入学式の日のやり取りはクラスメイト全員に目撃されているから隠しても無駄か。


「そうよ。蓮夜とは幼馴染よ」


「そうなんだ。その割には距離があるように思えるけど」


 他人からもそう見えるのか。私と蓮夜は……。


「私が悪いの……私が……」




 木村君が何か言っているが、私の頭には入ってこなかった。

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