5話 革命の闘士と天才科学者

 レヴィはこの変な家に連れてこられた時から、ただただ不信感ばかりが募り続けていた。

 家とは凡そ呼べない怪異な姿、あれ程強引に連れてこられたのに正直な理由が研究材料だったという憤り、さらに死んだ母のことを知ってそうな異邦人の美女――

 どうしてセドナにホイホイ着いてきたのか、レヴィは激しい後悔を覚えたがそれは最早後の祭りだった。

 そんなこんなで、レヴィは怪異な姿をした家の中に招き入れられる。

 その家は見た目も大分おかしな空気を醸し出していたが、中身もその異様さに拍車をかけている

 とりあえずの生活スペースを除いてその部屋は大量の本と書類で覆い尽くされている

 そしてテーブルの上には見たことも無い実験器具などが散乱している。

 どう見ても綺麗な部屋ではない、生活感溢れる部屋だった。

「おう、セドナようやく帰ったな!」

 セドナのその姿を見て明るく迎え入れたのはその筋骨隆々の身体にいろんな傷跡を受けた――明らかに猛者と言わんばかりの非魔血の男だった

「ええ、遅くなったけど一応仕事は果たしたわよデイヴィッド」

 セドナのその顔は少しばかり強ばっていた

 そして、まるでデイヴィッドと呼ばれた男を避けるようにそそくさと雑然とした部屋の奥に消えた

「ごめん、ちょっと着替えてくる」

 そんなセドナを少し気にしたデイヴィッドだったがその視線は自然とレヴィにも向く

「で、お前はだれだ?」

 それはこちらの台詞だ――そう言うため口を開こうとしたレヴィを遮るようにデイヴィッドはガントレットに覆われた左手で机を叩いた

「そうか、お前夜美ノ国やみのくにの人間だな」

 デイヴィッドのその突拍子のない一言にレヴィは思わずキョトンとした

 何言ってるんだ?このオッサン――

 それを言う前にこのデイヴィッドという謎の男は馴れ馴れしくレヴィの肩に手を回した

「さすが夜美ノ国の将軍様だぁ。また新たな闘士をこの腐った魔法帝国に送ってくるなんて……わかってらっしゃるぜ」

 この正体不明のおじさん――こと、デイヴィッドはどうやらレヴィにとんでもない勘違いを抱いているらしい

 それを理解した上で、レヴィは近くにいた夜美ノ民のカラに救済の視線を送った

 カラもまたデイヴィッドの性格を知り尽くしているのかレヴィにそのまま勘違いさせておいてと言わんばかりの顔をした

「やめて、デイヴィッド」

 その瞬間、奥の部屋のカーテンがシャッと勢いよく開いた。

 そこからは先程の青いドレスから動きやすそうなカジュアルウエアに着替えたセドナが仁王立ちしていた。

 それはドレスに身を包んでいた時とは全く違う魅力に満ち溢れていた。

「レヴィは革命とは関係ないの」

 その一言を聞いてデイヴィッドは怪訝そうな顔をうかべた

「じゃあ誰なんだよ。こいつ」

 その一言にセドナは答えなかった。否、あえて答えなかったのかもしれない

 そんなデイヴィッドを冷たく無視しながらセドナはある人物の名を読んだ

「ランクス。起きてる·····?」

 その瞬間、部屋の奥に山積みにされた書類の束がいきなり大爆発を起こすように崩れた

 そこから出てきたのは白衣を着た金髪眼鏡の非魔血だった。

「おっしゃぁああ!ようやく見つけた!俺の書いた人生4番目くらいの傑作論文!」

 よくわからない勝利の雄叫びをあげたその眼鏡はそのままハラハラと舞う書類の山の中で、あまり近寄りたくないハイテンションのまま言った。

「これが見つかったからにはあとは楽勝!勝利の方程式は俺の頭の中で出来上がってるんだ!見ていろよ!魔血に牛耳られた学会の古株ども·····これで目にもの見せてやる――」

「そうね。その前に部屋片付けてくれるかしら。天才科学者のランクス・ノエルさん」

 その声は興奮冷めやらない彼の背後から響いた

 ドキッとした表情でランクス・ノエルはその背後を振り返るとそこには鬼の形相で立っていた

「あ、カラ·····これはね……」

「ちゃんと片付けなさいよ。いい!」

 カラの強い言いつけにランクスはしゅんとした態度で床にちらばった書類を拾いだす。

 どうやらこの夫婦――だとおもうけど。主導権はカラにあるようだ。

「ランクス。ちょっと話しがあるんだけど·····」

 セドナはそんな彼の耳元で何かを囁いた

 最初は興味無さそうに何となく彼女の話を聞いていたが、その話が進む度彼の顔は真剣さを増していく

 まるで知的好奇心を上手く擽られているかのように――

「君、レヴィって言うんだね」

 その一言にレヴィは不機嫌そうに頷く。

「じゃあ、奥の部屋行こっか」

「は?」

 いきなりなんなんだ。この家の住人は――レヴィはそう言いたげだったが、それも読まれているかのようにランクスはメガネを押し上げた

「大丈夫。君の知りたいことは全て教えてあげる。だから俺に協力して」

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