4章  サランド公爵令嬢誘拐事件

1話 黒幕《フィクサー》

「遂にその計画を動かすのだな。イスラーグ」

 暗闇に覆われたその部屋に二人の男が対峙していた。

 一人は魔法騎士団団長であるイスラーグ・ジェラール。

 そしてもう一人は――深い闇のなかに包まれ何も見えない

 だが暗いながらもその場所の奇異さは際立っている。

 床をはう沢山のケーブルに謎の機械。

 だが中にいる黒幕フィクサーはその闇に身を隠しているようであった。

「はい。ようやく僕達の悲願が叶います」

 イスラーグはいつもとは違う丁寧な言葉で一言言った。

「もはや、火の一強は終わらせなければなりません。そのためにはサランド公には亡き者になっていただかないと――」

「ぬかりないな」

 暗闇の男は一言そう言った

 その言葉にイスラーグは丁寧に敬礼して言った

「火との全面戦争になることも覚悟の上です」

 その一言に暗闇の男は乾いたような笑い声を上げた。

「それでは楽しみにしておるよ。よ·····」

 その言葉を聞いてイスラーグはもう一度その暗闇の男に礼をするとそのまま部屋を出ようとした――その時だった

「お前の手駒の男――リュウ家の血を引く『闇』の子はこの作戦に関わらせる気か?」

 暗闇の男のその意外な質問にイスラーグはぴくっと足を止めた

「ええ、そのつもりですが?」

 その言葉に暗闇の男は意外な反応をした

「·····彼は唯一無二の子だ。私の計画には無くてはならん」

 その暗闇の男の懸念の声にくらべその事にイスラーグはさほど重く感じてはいないようだった。

 安心させるように薄く笑みを浮かべると彼は言った

「まさか今更彼が父親に靡くと思いますか?あれほど憎んでいる父親を受けいるはずがない。だから安心してください

 そういうとイスラーグは自信に満ちた顔で言葉を続けた

「僕はあの人を絶望のどん底に落としたい·····そのために彼には役目があるのです」

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