6話 炎嵐《ファイアストーム》

 その道はソフィアにとっていつもの馴染みの道だった。

 家のみんなはもう少し人目に付く場所を通りなさいとは言われる。

 サランド公爵家のお嬢様が表通りを通らずこの薄暗い裏通りを通るのは、色んな意味であまり宜しくない。

 誘拐とか待ち伏せとか――家のみんなはそういうのを危惧しているのだろう

 だけど、ソフィアはそういうのは全く気にしない。

 例えじめじめした裏道だとしてもここが学校から屋敷まで一番近い道なのだ。

 誘拐だろうが刺客だろうが来るなら来い。返り討ちに合わせる自信は彼女には充分あった。

「ソフィア、待ってよ」

 そんな彼女の一歩後ろを、同じ学校に通うジェイナスが恐る恐るついて行く

「ねえ、この道やっぱり危ないよ·····君も言われてるんじゃないの?」

 その言葉にソフィアはひとつため息をついて言った。

「ええそうよ。みんなもうちょっと人目に付く場所を使えって」

「じゃあ、言われた通り――」

 その一言にソフィアはイラッとした様子でジェイナスの方を振り返った

「あなたも私が襲われるとか思ってるの?」

 その強い一言にジェイナスは圧されたように何も返せなかった

「もう、みんなどこまでも過保護よね·····私は大丈夫よ。もし賊がきたとしても返り討ちにしてあげるから」

「この前のこと忘れたのかな――」

 ジェイナスのその一言にソフィアはジロっと迫力のある瞳で睨みつけた

 ジェイナスはそれだけで蛇に睨まれた蛙みたいに何も言えなくなった。

「この前は場所が悪かったのよ。それに私を誰だと思ってるの?烈火の剣聖の愛娘よ!」

「それはそうだけど――」

 ジェイナスがそう言ったその瞬間だった。

 彼の表情が急に恐怖で満ち溢れていく

 ソフィアは最初はなんとも思ってなかったが、どうもジェイナスの様子がおかしい。

「ジェイナス?」

「ソ、ソフィア·····で、でた·····かもしんない!」

 その切羽詰った声を聞いてソフィアはようやく前を振り返る。

 その場にいたのは骸骨兵スケルトン。それらは植物のように地面からニョキニョキと生えていき、そしていつの間にかソフィアとジェイナスは骸骨取り囲まれていた

「ひぃぃー!」

 ジェイナスは腰を抜かしながら恐怖で慄いた。

 だが、骸骨に囲まれて絶体絶命なのソフィアだけは冷静だった。

「ジェイナス·····」

 彼女は落ち着いた声で彼に指示した

「あなたは魔障壁シールド張ってて」

「え·····」

 その一言を聞いてジェイナスははっと息を飲む。

 その瞬間、ジェイナスは悟った。ソフィアがやろうとしてることを

「ソフィア、まさかあの魔法を――」

 その時ソフィアはゆっくりと両手を広げた。

 右手には火の如く狂おしい熱を、左手には風の如く狂おしい嵐を――

 それぞれに宿った別の属性の魔法を彼女は掛け合わせようとしていた

「火は父の血、風は母の血――私は交配婚ブレンドブラッドによって生まれた魔血。刮目しなさい!炎嵐ファイアストーム!」

 ソフィアはその瞬間、両手に宿った魔法をその頭上で合わせた。

 その瞬間、爆発的な熱風が辺り一帯に渦を巻いて吹き荒れる

 それは炎の竜巻だった。それは渦を上げて彼らを取り込んでいた大量の骸骨スケルトンを飲み込む。

 もはや骸骨は跡形もなく消し炭にならざるを得なかった。

 そして例外なく骸骨を飲み込んだ炎の竜巻をソフィアは小さく息を吐きながら手を払い収めた。

 辺り一面焦げ臭い匂いが漂う

 ソフィアは警戒を解くことなくじっと前を睨んだ

「いい加減出てきたらどうなのよ」

 その一言に小さな単体の拍手が辺りに響く

 その人物にソフィアは見覚えがあった。間違いないこの前の夜会に出会った賊だ

「すごいね。君。あの数を一瞬で消し炭にするなんて……さすが烈火の剣聖の娘って所かな?」

 彼がその言葉を言ったその瞬間だった。ソフィアは別の魔法の気配を感じそのまま緊急的に回避した。

 それは『水』――伸縮自在な水の帯がしなるように彼女を打ち付けようとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る