5話 三者三様の任務《ミッション》

 その事件が起きる一刻前――

 サランド公爵家令嬢ソフィア誘拐の任務を受けた3人の暗殺魔法士はまるで三者三様、テンでバラバラな事情を抱えていた。

「ほんとにそのお嬢様はこんな道を通るのかしら」

 茂みに隠れたティディエは訝しげに一言そう言った。

「学校の登校中を狙うって聞いたけど、普通ならもう少し人通りの多い道でいくんじゃないの?」

「いいじゃん、いいじゃん。現にこうして襲いやすい道を通ってくれるんだし·····」

 呑気そうにそう言ったのはザガロだった。

 それに対しティディエはイラッとした様子で彼を睨んだ

「ちょっと、あんた――たしかザガロって言ったっけ?」

「よかったー名前覚えてくれて!」

「そうじゃないわよ!あんたほんとにやる気あんの?」

 ティディエの凄んでいるようでさほど迫力にかけるその言葉にザガロは小さくため息をついた「当たり前だろ?僕だって遊びで来たわけじゃないんだから」

 その言葉にティディエは「それならそれでいいけど·····」と呟いた

「まあ、指定された場所がここなんだから疑いようがないよ。僕達は言われた通りにするだけ。それだけさ」

 その言葉を聴きながら、ティディエはその隣にいるレヴィをちらっと見た

 彼は昨日から驚くほど無口だった。

 それが元々かもしれないが、何かをずっと思案しているように言葉少なだった。

「ねえ、レヴィ·····」

 ティディエは思い切って彼に大して話しかけた

「あんた、ずーっと黙ったままだけどどうしたの?」

「――いや、なんでも?」

 そう言うとレヴィはまた視線を下に落とす

 彼には大きな懸念が頭をもたげていた

 何を迷っているのだろう――魔血令嬢の誘拐など初めての任務ミッションなんかじゃないはず

 なのに何故――サランド公爵家令嬢の誘拐に気が乗らないのだろう

 いつも通り淡々に任務ミッションすればそれでいいはずなのに

「なんか変なの」

 ティディエは一言そう不満げに言った

「あんたたちやる気ないなら帰ってもいいんだからね!今回はあたし一人でもやるんだから·····」

「やだなあ、まさか僕が君を危ない目に――」

「――待て」

 ザガロのその言葉を遮ったのはレヴィだった

 その瞬間、彼らは一瞬で押し黙り気配を消した

 その場に明らかに別の人の気配が現れた。

 人数は――2人。男と女。

 標的ターゲット接近中。その場にゆっくり近づくのは一人のひょろっとした魔血貴族の子息と一人の魔血の令嬢――

 栗色の長い髪をリボンでまとめた、ボーイッシュな巻きスカートを着た少女――ソフィア・ラキア・ティアマートだった。

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