4話 贖罪
その子の存在は、前々から疑問に思っていた。
騎士団長イスラーグが裏で色んな汚い仕事をしているのは知っていた
拉致、誘拐、暗殺――魔法騎士団本部に出入りする黒髪の少年も彼からその片棒を担がされているのであろう。
彼を最もよく知るセシリアだからその事を黙っている訳にはいかなかった。
ある日セシリアは騎士団本部で彷徨いていた少年を捕まえた。
彼は激しく抵抗した。
しばらく少年と揉み合いになった後セシリアは知ることになる。彼さえも知らない彼の出自を·····
カラン――とそれは地面に落ちた。
セシリアの視線はその場に落ちたものを凝視した。
それは銀色のペンダントトップ。銀色の蜥蜴がスピネルに絡みついたデザイン――見覚えのあるペンダントトップだった。
彼は一瞬セシリアに生まれた隙をついて彼女を突き飛ばすとそのままペンダントを大事に拾うとそのまま地面を駆け出し逃げていった。
それはほんの一瞬の出来事だった。
でもセシリアの視界の中では気持ち悪く遅いスローモーションに映っていた
「――で、その少年がこれを持っていた·····という訳だな」
ケンヴィードはセシリアの告白に表情ひとつ崩さず淡々と聞いた
彼は件のペンダントのチェーンを握りしめそのペンダントトップをぶら下げていた。
「本当にごめんなさい·····」
セシリアは珍しく人前で泣きじゃくりながらただただケンヴィードに非礼を詫びた。
「黙っていようかとても迷いました。だけどこのままじゃおじ様とあの少年が激突するのも時間の問題だと思いました。だからもし心当たりがないのなら私を罰してください」
「姉様·····」
そんな今まで見た事がない姉の姿にリーザは困惑の表情を浮かべた。
ケンヴィードはペンダントを宙に投げ、そしてキャッチした。
そして、静かに深紅の瞳を開けると一言言った
「セシリア、その少年の肌の色はわかるか?」
「え·····?」
その意外すぎる質問にセシリアは思わずケンヴィードの顔を見た
ケンヴィードは何かに観念したような顔だった。
「·····褐色です」
セシリアの声は残酷の刃のようにさえ思えた
ケンヴィードの表情が一瞬なにかの思いで歪む。
そしてペンダントを握る手を更に強く握りしめると、ケンヴィードは深いため息をついた。
「これも、贖罪なのかもしれない」
ケンヴィードが一言そう言いもう一度瞳を開けた次の瞬間だった。
屋敷内をけたたましく走る足音がバタバタと響き渡った。
そしてケンヴィードの書斎にも顔を青ざめさせた近衛兵が駆け込んできた。
「申し上げます!旦那様大変です!お嬢様が·····ソフィアお嬢様が――!」
「どうしたのだ!ソフィア――お嬢様がどうしたっていうの!」
リーザはそういうと慌てふためく近衛兵に迫った。
近衛兵は息を整えながら一言言った
「お嬢様が拐われました·····」
その一言を聞いて部屋中が一気に時が止まったように凍りついた。
そんな中、セシリアは微かな心当たりがあった。
「まさか·····イスラーグが?」
セシリアは次の瞬間、すっとソファから立ち上がるとその右手を泳がせるような手つきで宙に魔法陣を描いていた
「
その瞬間赤々とした炎の翼を羽ばたかせた不死鳥がその場に顕現した。
「
セシリアは召喚獣
その瞬間、不死鳥はけたたましい鳴き声を上げそのまま炎の翼を羽ばたかせ空高く飛翔した。
そして、それと同時にケンヴィードも動いた
「リーザ、行くぞ」
ケンヴィードは呆然としているリーザに一言そう言うと、颯爽と書斎を出ていく。
その一言にリーザははっと我に返ると。そのまま急いでケンヴィードの後ろを着いていった
「待ってください、ケンヴィード様。ソフィア奪還は私だけでも――」
「いや、今回ばかりは俺も出ないと色々とマズイ」
そう言うとケンヴィードは鋭い赤い視線で前を見た。
「リーザ、もし最悪の結末がきても――ソフィアは絶対探し出せ。いいな」
ケンヴィードは彼女の同意を得ることなくさらに足を早め『火蜥蜴御殿』回廊を歩いていく
ケンヴィードの様子がいつもとは明らかに違っていた。
それをリーザは強く感じたが、それ以上それを確認することが出来なかった
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