2話 取り引き
「ズーナ!セドナを連れて逃げろ!」
デイヴィッドはそう言い放つと長銃を構えた
「デイヴィッドは!」
セドナはそう言った瞬間彼女はズーナによって手を強く引っ張られた
彼女は有無を言わさずにセドナを裏口へと連れて行った
そして彼女たちが裏口へと走っていったのとほぼ同時に裏口へと行く道は氷の
「くそ…閉じ込められた…だと」
デイヴィッドたちパルチザンの面々は部屋の奥に固まって攻撃に備えた
ひたひたと近づく獣の足音。それは氷の息を履きながら現れた青い狼。その数3匹。
唸り声をあげながら奴らはデイヴィッドたちに一気に襲いかかった。
「焦るな!こいつらは現実じゃない――」
おそらくは召喚獣。だとしたら召喚士はすぐそばにいる――はず。
青い狼たちの猛攻にパルチザンの面々は腕を噛み砕かれたり、氷漬けにされたり一人また一人と倒れていく
だが、その強度はさほど高くはない。とデイヴィッドは思った。
デイヴィッドは長銃で狼の一匹の急所を撃ち抜く
次の瞬間狼は氷の破片へと砕け散っていった。
「これなら行ける――!」
デイヴィッドは慣れた手付きで次弾を装填すると、すぐ隣でメンバーを顎で噛み砕こうとしている狼にもう一弾打ち込む
それに気づいた最後の一匹はデイヴィッドに標準をあわせうなりながら襲いかかった
だがデイヴィッドは落ち着いていた。
そのまま銃身を持ち帰るとそれを武器にするように銃底で狼を殴りつけた。
氷の狼はこれで砕いた――手応えはあった。
だが彼はその殺気に思わず身を震わせた。
彼の背後に一人の魔血が立っていたのだ。
「な…」
文字通り首元に氷のように冷たい刃が彼に突き立てられる
非魔血のデイヴィッドにはどういう理屈でそうなるのか理解が追いつかなかった
「君が天下の大悪党デイヴィッド・リンガー?」
その短めの銀髪の男は一言そう聞いた
デイヴィッドは心の中でこの男には何も答えないと誓った。それが革命家の意地だと思った
「うーん…やっぱり口が堅いね」
男はそう言うとその凍えるような刀身でデイヴィッドの頬をなでた
「ちなみに、僕は別に君を捕まえるために来たわけじゃないよ?」
「え…?」
あまりにも意外なその言葉にデイヴィッドは思わず声を上げた
男はその反応を笑いながら言葉を続けた。
「僕にとっては君が魔血社会をひっくり返そうが返さないがはっきり言ってどうでもいい。だから君を逃がすことも考えている」
どういうことだ?デイヴィッドは明らかに動揺した。
魔血社会をひっくり返してもどうでもいいと思う魔血がいるということがデイヴィッドにとっては衝撃を持って受け止めていた。
「デイヴィッド・リンガー…僕と取り引きしない?」
その言葉にデイヴィッドは驚きながらはっと後ろを振り返った。
その後ろにいる男はニヤニヤと笑いながら緑と青の瞳を輝かせた。
「君がやることは君が目指していることを自由にやってくれればいい。ただそれを行う時期は僕が決める――それだけだよ」
その言葉を聞いてデイヴィッドは動揺が隠せなかった。
こいつは何を言っているんだ?そう言いたげの目で彼を見た
「あれぇ?もしかしてこの好条件迷ってる?」
彼は笑いながらそう言うとまたその凍てついた刃を彼の頬に這わせた
もはやそこは痛感さえもなくなっていた。
「飲めないんなら君もこのまま凍え死ぬよ?それにパルチザンとやらも僕の力で壊滅しちゃうかもよ」
その一言にデイヴィッドはごくっと息を呑んだ。
もはや彼の言う通り悩むこと自体が悪手と化している――そう思わざる負えないくらいの圧をデイヴィッドは感じていた
デイヴィッドは悔しそうに唇を噛むと一言言い放った。
「わかった!乗ろう!」
そういった瞬間、あたりに雪が舞うような凍てついた風が吹き荒れた
デイヴィッドはそのすきを突いて振り返ると義肢の手をその男めがけて翳した。
次の瞬間、爆音とともに火薬の匂いがあたりに漂った
先程剣を突き立てていた相手はもうそこにはいない。
あれは幻だったのだろうか――それとももっと違う術だというのだろうか?
その真意はどちらでもいいが相手がとんでもない敵だったのは間違いない。
明らかに末端の魔血憲兵ではない――それは魔法騎士団の上位の部類の使い手だった
「くそっ」
デイヴィッドは悔しそうにそう吐き捨てると壁を殴った。
その絶望的な状況を生き残れた幸運よりも突きつけられた約束に腹が立つ。
それが誰よりも嫌いな魔血に突きつけられた約束にただただ絶望した。
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