3話 凍てつく追手

 夜闇せまる帝都スラム街の道

 セドナとズーナは息を切らしながら追手から逃げていた。

 だが──しばらくしてからセドナはその異様さに気づいた

 それに気づいたセドナはふと足を止めた。

「ちょっと待って!ズーナさん!」

 セドナはそう言うと強い口調でズーナを止めた

 ズーナは足を止めると怪訝な顔をし当たりを見た

「私たち追われているのよね。なのに気配がないような…」

 セドナのその一言にズーナも困惑した表情で答えた

「そうね…確かに静かすぎるわね…」

 そう静かすぎる。だけどそれはただの静寂ではなく誰かの監視の目は強く感じる静寂だった。

 ズーナはその目を在処を探しながら彼女は開いた胸元から小さい刃を取り出した。

「誰…私たちをずっと監視してる奴…」

 ズーナはそう言うと緊張したようにふーっと息を吐いた。

 気持ち悪い視線を感じる静寂の中、彼女はありとあらゆるものに集中しはじめる。

 それは人間の息吹だけではない、動物植物──全ての生きとし生けるもの。

 その中にいる明らかに違和感を覚える明らかに異質なもの──

 その瞬間ズーナは手に持った刀を投げた

 それは意外なものを射抜いた。

 空飛ぶ鴉──それはズーナの刀に射抜かれた瞬間、氷片として粉々に砕け散った。

「おかしい」

 ズーナは一言そう呟くと虚空を睨んだ

「これは、ただの魔血憲兵の捜索じゃない…それよりも小規模、しかも強い力…」

 次の瞬間、ズーナはハッと後ろを振り返る

 そこに居たのは魔法騎士団の軍服を着た魔血の男だった。

「誰──!」

 ズーナは咄嗟にその男めがけて腰に刺した刀を抜き、その男目掛けて斬りかかった。

 だが刀身はその勢いを失い途中で止まってしまう

 その男はすっと手をかざしただけでズーナの赤みを帯びた刃を受け止めていた。

「この赤い刀身…夜美ノ国のいわゆる南家と呼ばれる謝家相伝の刀身だね」

 その一言を聞いてズーナは驚愕の表情を浮かべた。

「何で!?何でそれを──!?」

「さあ?なんでだろうね…君自身が考えればいいよ。シャ・ズーナ」

 その瞬間、男は軽く払うように彼女の赤い刀身を跳ね除けた。

 この男…何者?ズーナは赤い刀を翻すときっとその男を睨みつけた。

 まさか私の正体を知ってる?隠密衆である私の正体を──

「夜美ノ国が何を考えてるかは知らないけど、君が潜入したことくらい僕たちが察知してないと思った?」

 男はそう一言いうと指をパチッと鳴らした。

 次の瞬間ズーナの身体はあらぬ方向に急激に叩きつけられた

 壁に叩きつけられたズーナは震えながら刃を持った右手をみる

 その部分は壁に張り付いたように凍てついてびくとも動かなかった

「セドナ!逃げ──!」

 ズーナはそこにいたセドナに警告しようと叫ぼうとした。

 だがその男は既にセドナのすぐ側に近づいていた。

 セドナは恐怖を浮かべた表情でその男を睨みつける

 終わりだ──彼女はそう思い目を閉じた次の瞬間、返ってきたのは意外な反応だった。

「初めまして…エリザーベド」

「え…」

 その名前に呼ばれてセドナは呆然とした表情を浮かべた

 死んだはずの自分の名を何故呼ばれたのか彼女の頭は激しく混乱した。

「そんなに混乱しないで」

 彼はそんなセドナを見てくすくす笑った。

「君はバイデンベルク家の令嬢であることも忘れたのかい?魔法の血がないからってそう易易と捨てちゃもったいないよ」

 男はそう言うと彼女の前にひざまずくと彼女の右手にキスを落とす

 そんな男に対しセドナは思わずその手を払い除けた。

「やめて!」

 そう言うとセドナは男の顔を睨んだ。

 男は緑色と青い瞳――自分と同じオッドアイだった。

「あなたに何がわかるの?私はもうエリザーベドじゃない!」

 男はゆっくり立ち上がると冷たい視線でセドナを見た

「さっきもいったよね。君はその名を捨てるにはもったいないって」

「そんなのあなたには関係ない――!」

 そう言ってセドナは男から逃げようと踵を返した

 だがその手は体温さえ感じない冷たい手で掴み取られた。

「ちょっと――やめて!」

 セドナは思わず男をにらみつけた

 だが彼はそのままセドナの手を縛り上げるように拘束した。

「それが関係あるんだよ。エリザーベド」

 男はそう言うと怯える彼女に向かってニヤッと笑った。

「君によって僕の武器が使い物にならなくなるのはあまり良くは思ってない」

「武器――?」

 その一言を聞いてセドナはその言葉の真意にたどり着くのはそう時間はかからなかった。

 セドナはその瞬間目をはっと見開いた。

「あなたレヴィの――?」

 その瞬間、空を切る刃が男の頬を掠った

 男は一つ舌打ちするとそのまま足元に青白い魔法陣を展開した。

 その瞬間セドナを連れたまま彼は移動魔法を使ってその場から消し飛んでいった。

「逃したか…」

 小さい飛剣を持ったズーナは悔しげにそう舌打ちした。

 男を退けたのはいいのだが、巻き添えを食らうようにセドナがさらわれてしまった。

 ズーナには先程の男に見覚えがあった。

 間違いない。あの男、魔法騎士団団長のイスラーグ・ジェラールだ。

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