3章 忍び寄る崩壊

1話 伝説の侠客

 帝都のスラム街地下。

 久々にその場に足を踏み入れたセドナはすこし浮かない表情をし地下室のドアを開いた。

 そこにあるのは剣や銃などの大量すぎる武器と火薬の匂い。そして屈強な非魔血の男たちや中には異国の民のような褐色肌の人間もいる――

 彼らは魔法帝国にしてみればならず者のテロリストというべき革命の闘士だった。

「よう、セドナ」

 部屋の奥に鎮座しているその非魔血の男――デイヴィッド・リンガーはその場で明らかに異質な真っ白な肌の少女セドナを呼んだ

「お前がこのアジトに自らやってくるのはだいぶ珍しいな」

「呼び寄せたのはあなたでしょ?デイヴィッド」

 セドナはそっけなく一言そう言うと彼の前に座った

「で、何の用なの?」

「そんな怖い顔するなよ」

 そう言うとデイヴィッドはニヤッと笑ってセドナを見た。

「お前、最近私生活が充実してるってな?」

 その一言にセドナはすこし苛つきを見せて彼を睨んだ。

「そんなの今は関係ないでしょ」

 そんな突っぱねた言葉にデイヴィッドは暗く目を光らせ一言言った。

「お前の相手、調べさせてもらったよ」

 その一言にセドナの表情に緊張が走る。

「レヴィ・リーゥ。母親は夜美ノ民の暗殺者で父親は――まあ今ここで名前を出すと革命の闘士たちの動揺を誘うから伏せておくが――高貴な魔血貴族の血を引くという。つまり夜美ノ民と魔血のハーフってやつか。現在は魔血専門の暗殺ギルド『ブラッドキラー』所属。そのギルドは水の血の魔血が出資しているらしく、彼が狙うのはもっぱら彼らの敵対勢力ってわけになるのか――」

「もういいでしょ!」

 セドナは悲鳴に似た声でその話を遮る。

 だがその眼の前のデイヴィッドは非情にも冷たい視線で彼女を見た。

「お前、頭冷やせよ」

 そう言うとデイヴィッドはタバコを咥え火をつけながら言った。

「お前の彼氏は半魔血というこの国の中では明らかに異質な存在。しかもそれに加え暗殺業を生業にしてる。しかもお前の本当の親の勢力に与している――その意味がわかるか?」

「それは…」

 そんなの関係ない――!そう言い倒したいところだったがセドナにはその言葉を言うことができなかった。

「お前の実家は水の選帝侯家――そして、この国で一番腐ってる魔血貴族が水の血だってお前だって知ってるだろ!」

 その啖呵にセドナは思わず押し黙る

 だがしばらくの沈黙の後、悔しそうに顔をうつむけぽつりぽつりと言葉を紡いだ

「ええ、そうよ。私の出身血属はいわば魔法帝国の保守派。変わることを恐れ、変えようとする者を消そうとするばかりの愚かな血属よ」

 そんな彼女を見てデイヴィッドは得意げな表情でセドナを見た

「話はあまり複雑にはしたくはないが、お前の彼氏はお前の出身属性に利用される側。つまり回り回って俺たちにも害があるかもしれない」

「ちょっと待って!」

 セドナはそう言うと思わずその場に立ち上がった

「レヴィはそれには関係ないわ!勝手なことを言わないで!」

「お前こそいつものように冷静になれよ…らしくない」

 そう言うとデイヴィッドはタバコの煙を吐いた。

「彼氏を愚弄されて頭に血が上ってるとしか見えないんだが――」

「デイヴィッド」

 そんな二人の言い合いに割って入った人物が近づいてくる

 褐色の肌、黒い瞳、異国風の衣装――それは夜美ノ民と思われる背の高い美女だった。

「私もその半魔血に興味があるわ」

「…ズーナか」

 誰だろうこの人?セドナはそんな彼女の顔を覗き込んだ。

「あなたが、噂の不完全魔血の彼女ね」

 そう言うと夜美の民の美女は彼女に笑みを浮かべた。

「はじめまして、私はシャ・ズーナ。夜美ノ国から来た革命の闘士よ」

 なんだろう…不思議と好感が持てる笑顔だな

 セドナはそんなこと感じながら彼女の手に握手をした

「こちらこそはじめまして、セドナ・フロストです…」

 セドナはそうおずおずとお辞儀をする。

 シャ・ズーナと名乗った夜美ノ民の美女はニコニコしながら彼女を見た。

「じゃあセドナ。早速聞くけど…夜美ノ民と魔血との混合のあなたの彼氏…確かレヴィ・リーゥって言ったかしら…その子と私、会いたいわ」

「え…?」

 ズーナの突拍子もない頼みにセドナは驚くしかできなかった

 どうして?と聞く前に、ズーナは平然と言葉を続けた

「彼の母…ユノ・リーゥ――いいえリュ・ユノは私の前任者というべき方でね…彼女ができなかった任務を完遂するために私は魔法帝国に潜り込んだの」

 そう言うとズーナは意味深にニコっと笑った。

 その笑みの冷たさにセドナは一瞬で戦くしかできなかった。

「まあそれは私の方の問題だから気にしないで」

 ズーナはそういうと気持ちを変えるようにパンと手をたたきまた親しみを持てる笑顔を浮かべた

「そりゃ前任者のリュ家出身の侠客のご子息なんて会いたくないわけないじゃない!夜美ノ民だったら誰でも思うわよ!」

 急にテンションが上りだしたズーナを見てセドナはぽかんとしてしまった。

 だがすぐに正気を取り戻しズーナに逆に質問した。

「レヴィのお母さん…ってそんなにすごい人なんですか?」

 その一言にズーナは少し自慢げに高らかに答えた。

「そりゃ我がシャ家と並び称される夜美ノ国の名門中の名門リュ家――元は龍の巫女の家系ではあるけど武芸にも秀でて我が国の優秀な将軍を数々排出してるまさに夜美ノ国の武を誇る名門だ」

 ズーナのその言葉にセドナは呆然と聞くしかできなかった。

 とにかく入ってくる情報が濃い。だからなかなか理解が追いつかなかった。

「とにかくユノ様はわが夜美ノ民でも英雄視されてた侠客ではあるが…まさか魔法帝国での任務中に魔血との子を成していたとは…それはそれで興味はつきないけどね」

 その言葉を聞いてセドナはごくっと息を呑んだ。

 なんでだろう、レヴィの存在が急に怖く思えてきた。

 それ故にセドナはレヴィのことをこれ以上利用されたくないと強く思えた。

「私はレヴィを守りたい…」

 セドナは小さく呟く声で一言言った。

「みんなレヴィのことを利用しようとするばかり。だれも彼の苦しみなんてわからないよね――」

 次の瞬間だった。

 地下アジトに一瞬で緊張感が走った

 ひやっと肌につく冷気がまとわりついた次の瞬間、狼たちの唸り声が地下室に響き渡った。

「まずい…」

 デイヴィッドは机にタバコを押し付けると背後の長銃に手をかけた

「どうやら見つかったようだ」

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