5話 暗殺魔法士

「今日は別に誰を標的ターゲットにしても自由でいいよ」

 あの男はそう彼に吹き込んだ。

 彼はそれに不満しかなかった。

 ただ標的を決めず誰なれ構われ暗殺したらそれは暗殺者ではなくただのテロリスト。

 10年近くこの仕事をして、それに誇りに思っているのでどうしても誰を標的にしてもいいと言ういい加減な上の命令に承服しかねなかった。

 このけばけばしい趣味の悪い夜会の主催者レイヴロン子爵バーナード・キングラムを手にかけた暗殺魔法士レヴィ・リーゥは彼の骸を貫いた黒い短剣を引き抜いた。

 そして不満げなため息を一言ついた。

「やっぱ納得出来ない…」

 だが、そんな変なプライドは時には捨てなくてはならない時もある

 今は速やかにこの場を脱する事が急務であった。

 レヴィはすっと踵を返しその場を去ろうとしたその時だった。

「あなた…何して…」

 そこに居たのは浅葱色のショートヘアの魔血の少女だった。

 ――やば

 変なプライドを持て余したせいで判断が遅くなった

 レヴィは血が着いた黒い短剣を抜くと殺人現場を目撃して呆然している魔血の少女にふわっとそして風のように一瞬で襲いかかった

 命は――奪ってはいない。奪おうと思えば簡単にできたはずなのに何故かそれをしなかった

 ただ彼女をそのまま床に押し付けただけだった

 だが、それはレヴィが犯した失敗だった。

 彼女はその瞬間、下手したら迎賓館の外まで聞こえるほどの大きな悲鳴を上げた。

 ――まずい…!

 その瞬間、レヴィは彼女の口を急いで塞いだが、彼女はそれを抵抗するように更に声を上げる

 このままじゃ増援がくる――!

 彼女の暴走の悲鳴をとめるのは簡単かもしれない

 彼女の命をさっさと奪ってしまえばその問題は解決するかもしれない

 だが、レヴィはそれを実行することをどうしても行使出来なかった

 それは先程のどうでもいいプライドの為か別の感情か――否それを迷っている時間はない

 レヴィは一か八か彼女にある魔法をかけた

サイレンス!」

 相手は魔血だ。魔障壁シールドを使われればこちらに返されたりもするからある種の賭けだった。

 だが、詠唱妨害魔法であるサイレンスは彼女の悲鳴を止めることに成功する

 声を失った彼女ははっと金と紫の瞳を見開く

 レヴィはそのまま立ち上がると口にしーっとジェスチャーした。

 そして、そのまま彼は駆け出した――その時だった

 レヴィは時間をかけ過ぎた事を強く後悔した。

 彼女のけたたましい悲鳴は迎賓館の警備のレベルをグンと上げさせてしまっていた

 逃げようとしたその矢先レヴィの前に警備兵2人と鉢合わせしてしまう

 ちっとレヴィが舌打ちし、その手に魔力を集中させようとしたその時だった。

 立ちはだかった警備兵たちの身体がいきなりぐらりと崩れ落ちた。

 彼らの足元には赤黒い逆三角形の魔法陣。

 それは彼らの生を貪り食うかのように黒々と鈍く輝いていた

「君らしくないなあ…レヴィ」

 そう言うとその背後にいたもう1人の警備兵がその隊服を脱ぎながら彼に近づいてきた。

 その右の人差し指の先はあの逆三角形まの魔法陣が浮いていた。

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