8話 勝気なお嬢様
「ねえ、レヴィ…」
入り組む迎賓館の裏廊下
レヴィとザガロはその道を疾走しながら会話した
「これ、絶対迷子でしょ」
「うるさい!それくらい知ってる!」
そう言うとレヴィはその足を止めずにザガロに一喝した。
だが悔しいことに彼の指摘はあっている
どういう訳かこの館の廊下は本当に入り組んでおりどこから外に出られるか疾走するたびに分からなくなってきている。
しかも定期的に警備兵は襲いかかってくるし、それを対処してさらに逃げようとしたらまた方向感覚が麻痺していく。
これじゃあ永遠に埒が明かない状況だ。
「ねえ、もうこの壁をぶち破っちゃえば?」
ザガロは一言そう提案した。
それを聞いてレヴィはふと足を止めた
「そうだな…たまにはお前もいい意見を言うな」
「たまにはっていつも通り辛辣だね」
その言葉にザガロは苦笑いを浮かべた
「まあぶち壊すって事は君の得意分野だから、ぶちかましちゃって」
その一言にレヴィは壁に向かってすっと手をかざしその掌に魔力を込め始めた――そんな時だった
レヴィはその場に別の魔力反応を強く感じとった
そしてそれとほぼ同時に彼は壁を壊すための攻撃魔法から魔術回避のための防御魔法に変更しそのまま自らの身体に
次の瞬間赤々とした紅蓮の炎が彼に襲いかかった
新手か――
レヴィはその火の魔法が飛んできたそちらを睨みつけた
またどうせ新手の警備兵だろう。最初はそう思っていた
だが彼らの目の前に現れたのは男臭い警備兵とは180度別の存在
美しい黄色いドレスに身を包み、栗色の髪を優雅に結った、明らかに育ちのいい可憐なお嬢様が目の前で仁王立ちしていた。
「ちょっと、あなたたち……」
彼女は怒気を込めて彼らを睨んだ
不思議なことに見た目は高貴な生まれなのはひと目でわかるのだが、他の貴族とは違いその態度は驚くほど好戦的に見えた
「あなたたちが例の賊ね!」
そう言うと彼女は掌に炎の魔力を込めた。
そして目にも止まらぬ速さに火球をうち放った。
レヴィはそれを冷静に防御魔法で対抗した。
だが目の前のお嬢様は遠慮なしに更に多数の火球を放とうとしていた
「めんどくせえな……」
レヴィはその様子に思わず舌打ちした。
どう見てもまずい状況なのは変わりようがない。
彼女を排除するしかこの状況は打破できないのかもしれない
「どうする?レヴィ」
そう涼しそうな顔で言ったのはザガロだった。
「あの子殺さないと多分僕たちには勝ち目ないと思うけど…」
「それくらい分かってる」
レヴィはイラついた様子でザガロを苦々しく見た
だが彼の言うとおりなのかもしれない。
あのお嬢様を排除しない限りこちらにとってはジリ貧だ。
「ほらほらー何もしてこないのなら終わらせちゃうわよ!」
そう言うと勝気なお嬢様はさらに大きな火球の魔法を詠唱した。
まずい――レヴィはそれを見て瞬時に同じように魔法を詠唱しだした。
そして魔法は二人ほぼ同時に完成した。
「
「
その瞬間赤い炎と黒い炎は目の前でぶつかりあった。
否、それは相殺という状況とは到底言わなかった
赤い炎と黒い炎は触れたその場でパチンと激しい閃光を上げ、大きな衝撃波を出したあと忽然と消えた
彼女はその閃光と衝撃波で一瞬怯む
その時だった。彼女の首からあるものがはらりと落ちた。
カツンと音を出して廊下に落ち、そしてレヴィの足元に転げ落ちた
それはペンダントトップであった。
スピネルの宝玉に銀で宝飾された蜥蜴のような生き物が絡みついたデザインだった。
レヴィは彼女の首からこぼれおちたペンダントトップに目が釘付けになっていた。
彼にはそのペンダントトップに見覚えがあった
だがそれはありえない話だ。なぜならそれは――
「ソフィア!下がって!」
その瞬間、その場に別の軍靴の音が甲高く響いた
彼女は白いマントを翻しながら跳躍しそしてその刃をレヴィにむかって翻した
魔剣――魔法の刃を精製し扱う
彼女のそれは普通魔血の男子でも扱うのは難しいと言われる巨大な炎の刃だった。
レヴィはその大きな刃をずっと後退しながら回避するとそのまま彼女睨みつけた
「リーザ!来たの?」
ソフィアと呼ばれたお嬢様は安堵の表情を浮かべた
リーザと呼ばれた白い騎士は両手剣型の魔剣を軽々と翻すとレヴィとザガロを睨みつけた
「お嬢様を傷つけるやつは絶対に許さない!」
そう言ったリーザは有無を言わさずレヴィに踊りかかろうと地を蹴った――その時だった。
「
その瞬間廊下に無数の死霊の手が廊下一面に植物のように生えた
そしてそれはリーザやソフィアの足首を強く掴み引っ張った。
「くそ…」
リーザは悔しそうな顔をしてそれを睨んだ
そこには右手を廊下に突き立てたザガロがニヤリと笑みを浮かべていた
レヴィはチャンスはここしかないと確信した
次の瞬間、その掌に魔力を込めた
黒い炎は彼の手にまとわりつくように鈍く輝いた
「
次の瞬間黒い炎は闇の閃光を放ち爆発四散した。
だがその魔法は彼女たちを襲うことは無かった
土煙と黒い炎の残り火が残る中、リーザは足元を抑えていた死霊がようやく地面に消えていくのを確信した
そして、賊を逃がしてしまったという強い後悔が彼女の中を支配した。
「逃がしたか……」
リーザは苦虫を噛み潰したように一言そういった
土煙は次第に収まりその壁には大きな穴がぽっかり空いていた。
そんなリーザを横目に、ソフィアはゆっくりと先程首から外れてしまったペンダントトップをゆっくりと拾った
彼女は強い違和感を覚えていた
何かと反応し合うように触れた瞬間消えてなくなった魔法、そして自分の――否、サランド公爵家の紋章を象ったペンダントトップを見て激しい動揺を見せた彼。
何が何だか頭の中では全然整理がついてないけど、ソフィアにはあの暗殺者が何者か気になって仕方がなかった。
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