5話 兄と妹

ここを去ろう――目覚め出自を知った瞬間、レヴィはそう決意した。

それが父が向けてくれた好意なのかもしれないが、悲しいことにレヴィには甘え方がわからなかった。

だからいつもの様に拒絶してそしてまた独り――因果な性格としか言いようがない。

どちらにしろ自分は火蜥蜴御殿ここにいちゃいけない。居れば居るほど父やソフィアに迷惑がかかる。

それを重々肝に命じているからレヴィはここから出ようと思っていた

が――火蜥蜴御殿の正門にそんなレヴィを待ち構える待ち構える2人の人影。

それはレヴィの腹違いの妹に当たる公爵家令嬢ソフィア・ラキア・ティアマートとその幼馴染にあたるジェイナス・エアグレイスだった。

「ねえ、あなたこれから何処へ行く気なの?」

ソフィアは腕組みしながらその場から立ち去ろうとするレヴィに一言聞いた

「さあ、何にも考えてないけど?」

レヴィはため息混じりに淡々とそう答えた。

そんなレヴィのその対応にソフィアは耐えかねたのか、すこし苛立ちを露わにして言った。

「何よ。もっと素直に答えればいいじゃない。一応兄妹なんだから」

「お前、本当に俺の事、兄だって思ってる?」

その問いにソフィアは不貞腐れたように一言言った

「思ってるわけないじゃない。急に自分に兄がいるなんて言われたら·····さすがの私だって混乱するわよ」

その一言にレヴィは初めて口元に笑顔をうかべた。

「だったら兄妹だからっていう台詞言うな。俺たちは今までもこれからも他人で生きて行った方がいいんだよ」

その言葉を聞いてソフィアは複雑な表情を浮かべる。

それ以上言葉を紡げないソフィアを見てレヴィは何のしがらみもなく火蜥蜴御殿を出ようとしたその時だった

「――あの時は、ありがとう」

不意に出たソフィアのその言葉にレヴィは思わず足を止める

ソフィアは素直に自分の胸の内をさらけ出そうとしていた。

「あの時、あなたが私の味方になってくれてなかったらお父様も巻き込まれていたかもしれない。それだけは·····感謝してるわ」

その一言をレヴィは黙ったまま聞き終えた

そして何も言わないまま火蜥蜴御殿を後にして行った。

「ソフィア、いいの?」

そんな二人の会話を聞いていたソフィアの幼馴染であるジェイナスは一言彼女に聞いた

「僕も君たちの家族関係に口出しする気はないけどさ·····ソフィア、彼にいてもらいたかったんじゃないの?」

「――何で?」

ソフィアはジェイナスの方を振り返ることなく一言聞いた。

ジェイナスは言葉に苦慮しながら答えた

「僕も出過ぎたことを言うかもしれないけど。ソフィアは彼にお兄さんになってもらいたいんじゃないかなって。それが君の言う普通の家族になれるなら――だから彼をここで待ってたんだろ?」

その一言にソフィアは何も答えなかった。否、答えることが出来なかった。

私はあの人のことをどう思っているのだろう。

その答えが見つかるまで恐らく時間がかかるであろう。

それまできっとあの人を兄だとは思うことは出来ないだろう。

そして、あの人を兄だと本当に思える時、自分は何かが変われるとソフィアは思った。

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