2章 そして愛を知る

1話 弾圧

火蜥蜴御殿を飛び出してどこへ向かうとは何も決めて居ない

今更、イスラーグのお世話にはなれないし、それ故に暗殺者ギルドも居心地が悪い。

だとしたら本当に俺の居場所はどこにあるのだろう。

本当に数少ない居場所すらなくなったのだろうか――

「私、待ってるから!」

レヴィの脳裏に過ぎったのはあの時の彼女の声。

あの時研究工房ラボラトリーを去る際去る際に彼女が言った言葉。

「私いつもここで待ってるから!いつでもここに来て!私待ってるから!」

ホントなのかな――?

レヴィはあの時のセドナ・フロストの言葉を頭の中で樊崇していた。

そしてその足も自然とあの研究工房ラボラトリーのある帝都の東側のスラム街へと向いていた。

ただ――そこはこの前とは様相が違っていた

煙突とダクトだらけの不思議な家の周りには野次馬が大勢集まりその内側には魔法憲兵が五六人ほどすごい剣幕でその家を取り囲んでいる

「ちょっと言いがかりもいい加減にしてください!」

その瞬間研究工房ラボラトリーの玄関から一人の肌の白い少女が魔法憲兵に腕を捕まれ連れ出されていく

「デイヴィッド・リンガーなんて男私は知りませんし、この家にもいません!」

「ほう、それは嘘ではないか?」

そう言うと魔法憲兵は彼女の顔を乱暴に掴むとジロっとなめわわすように見た

「お前、どこの魔血貴族のお嬢様だ?どうしてこんな臭い掃き溜めにいる?」

その一言にセドナは無力を噛み締めるように魔法憲兵を睨みつける

だが、彼女の事情を知らない魔法憲兵はさらに気色悪い笑みを浮かべ彼女の美しい顎をゆっくり上げた

「どこのお嬢様かなんだかしらないが、家出の腹いせで革命運動に関わるのは目を瞑る訳には行かないんでね。とりあえず取り締まりさせて――」

その瞬間だった。

セドナを拘束していた魔法憲兵が急に殴り飛ばされた。

そのあまりの速さに誰もついていけず、一同何が起きたかわからなかった。

だがセドナだけはその黒い少年を見て目を輝かせた

「汚い手でセドナを触るな!」

レヴィはその瞬間、怒りを露わにしてその言葉を吐き捨てた。

だが、それと同時に相手を補足した魔法憲兵たちが一気に戦闘態勢へと入る

「異国の民!やはり革命組織は夜美ノ国と繋がっていたか!」

レヴィの容姿だけを見て憲兵たちは殺気を滲ませそう言う

だが、レヴィの中には革命組織とか夜美ノ国とかははっきり言ってどうでもよかった。

ただ、セドナを汚そうとしてこの憲兵だけは許せない。それは強く感じていた。

レヴィは腰から1対の黒い刃を抜く。

それを見てセドナはレヴィを止めるように彼のジャケットの裾を握った

「レヴィ、あまり大事にはしないで」

その一言にレヴィは小さく笑った

「殺すまではしねえよ」

そう言った次の瞬間、一人の憲兵は炎の魔剣を翻しレヴィに襲いかかった。

だが、レヴィはそれを落ち着いて捌いた

魔法鉱石で生成されてない通常鉱石で出来ているはずの黒い刃で。

付与エンチャント――武器に自分の属性を乗せる技術はいつの間にか会得していた。

そしてそれを応用する方法もレヴィは体得していた

炎の刃を捌いた次の瞬間、レヴィは 付与エンチャント段階レベル最低ローギアへと変速する。

そしてそのまま彼の背後を取った次の瞬間その黒い炎を纏った刃を振り下ろした。

瞬間、放たれる黒い衝撃波。

だがそれ自体には殺傷能力はない。ちょっと見た目が派手な峰打ちだった。

「こいつ付与エンチャントが使える――だと!」

思わぬ相手の予想もしない魔法に魔法憲兵は一気に殺気立った。

ぐったり伸びきった相手の身体を蹴りながらレヴィは黒炎を纏った黒い刃を構えた

「どうやら普通の短剣に付与これを乗せるの相当珍しいみたいだな」

そういったその瞬間、別の魔法憲兵がレヴィの背後を取りそのまま魔法を詠唱する

だが、レヴィは余裕の笑みを浮かべそのまま付与エンチャントした黒い刃を振り上げた

ただそれだけで高く立ち上った黒い衝撃波。

そのあまりの発生の速さに何も出来ないまま魔法憲兵は撃ち落とされていった。

「やばい·····応援を頼む!このままだと――!」

そう後方に司令を飛ばした魔法憲兵はその瞬間後頭部に当てられた冷たい銃口に血の気が引いた。

そこに居たのは金髪眼鏡の非魔血の男が彼に拳銃を構えていた。

「人の家の前でなーに騒ぎ起こしてんだよ」

それはこの家の主であるランクス・ノエルだった。

だが、相手は所詮非魔血だ。玄関で暴れている半魔血よりか処理は簡単なはず。

そう判断した別の魔法憲兵がランクスの背後を取り先手を撃とうと行動を起こした。

だが彼のもう1つの銃口がそれよりも速く火を吹いていた。

「俺が非魔血だからって舐めてるだろお前ら」

そう言うとランクスは拳銃から吐き出す硝煙をふっと息で吹き消した。

「理由はどうあれ俺の家の前でこういう騒ぎはやめていただきたいね。なぜなら――」

次の瞬間ランクスの目の前にそれとは別の魔法憲兵が魔法を詠唱しはじめているのを確認した

だが彼は驚くほど冷静な表情を崩すことなく一言言った

「だから、いい加減俺たちを魔法が使えないからって舐めるのはやめて頂きたいね!」

次の瞬間ランクスはその身体を素早く屈めさせた

それと同時に詠唱し始めた憲兵の喉に何かが素早く絡みついた。

「――!!」

声が出ない。

それは細い糸のような針金ワイヤーだった。

「残念。魔血は声が出ないと魔法が使えないんだっけ」

そこには黒い髪を三つ編みにした褐色肌の異国の美女――カラ・ノエルがまるで魔法を放ったような手つきで針金をその手に絡ませていた

「おーい。カラ、本気でそいつら殺すなよー。適当に痛ぶっとけ」

ランクスはそう言うと手の中で拳銃をぐるっと回すと、一番偉そうな憲兵の額に銃口を当てた

「で、俺が留守の間に憲兵の皆さんは何の用ですかね」

その態度に憲兵は思わず青筋を立てるくらいランクスを睨みつけた。

しかし、どうやら分が悪いことを判断したのかひとつ咳払いをしたあと言葉を続けた

「この家に非合法組織『パルチザン』のリーダー、デイヴィッド・リンガーが出入りしてるな」

その一言にランクスは口元に余裕の笑みを浮かべた

「さあ?デイヴィッドは俺の昔馴染みだけど最近は見てないけどな」

「嘘を言うな!調べは着いてるんだぞ!」

怒気をあげる憲兵にランクスは力を入れて銃口を突きつける

「あんた帝国の憲兵であれば、帝国の憲法くらい知ってるよな」

そう言うとランクスはいつもの飄々とした表情が嘘のように鋭い視線で彼を見た。

「魔法帝国憲法第8条――いかなる人民も公権力の行使に同意しなければならない」

「そ、そうだ!」

その言葉に声を荒らげたのは憲兵の方だった

「我々は魔法帝国憲法によって動いている。だからお前らなど公権力われわれにひれ伏さなければならないんだ!わかったか!」

その理屈は確かに通ってはいた。

だが墓穴をほったと思われたランクスは余裕の笑みを浮かべている

憲兵たちはそれが気に入らず更に言葉を荒らげた。

「いいか貴様らごとき非魔血など魔血われわれの足元にも及ばんのだ!だからひれ伏せ!今すぐ頭を垂れろ――!」

「あんた、俺が魔血あんたたちの憲法引っ張り出した意味わかってる?」

ランクスは冷静な顔で一言そう言う

憲兵は反論しようとしたがランクスはさらに強く彼の口に拳銃を突っ込んだ

「いいか、魔法帝国憲法ってのは時の皇帝が下々の魔血たちを縛るために作ったものだ。その証拠に発布された時はひと握りの魔血たちしか同意してない。つまりこの意味がわかるか?」

その答えにどの魔法憲兵も答えることが出来なかった。

ランクスはさらに冷静な理論で全てを薙ぎ倒していく。

「本来憲法っていうのは国民の承認を得て効力がでる。でも魔血あんたたちの理論じゃ、正直非魔血俺たちは縛れない。俺たちの承認のない憲法持ち出しても俺たちは縛れないよ」

「なっ――」

それは魔血にはただの屁理屈にしか聞こえないだろうが、ランクスの言葉は理論が通ってた。

魔法憲兵たちは誰一人反論できなかった。否、しなかったのかもしれない。

「つまり、この令状は無効ってことになるよな?憲兵さん」

そう言うとランクスは敢えて戦意を下ろすように突きつけた拳銃を下げた。

「俺達も事を穏便に済ませたいから、できれば帰ってくれるかな?」

「貴様――!」

「おっと、もう争いは終わりだよ」

ランクスは2丁の拳銃を白衣の裏に収めるともう一言言った

「今度俺の家に踏み込む時はちゃんとした頭脳を用意しとけ。脳筋魔血の相手は好きじゃないんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る