4話 最低の父親
「ねえ、母さん」
幼い時レヴィは一度だけ母に禁忌の質問をしたことがある。
自分の父のことだった。
「俺の父親ってどんな奴だったの?」
今思えばすごく無神経な質問をしたなとレヴィは今更ながら反省しかなかった。
だけど息子の傷をえぐりかねないその質問にユノは優しげな表情を浮かべ返した
「そうね·····結構無茶する人だったな」
「無茶?」
「とにかく危なっかしいのよ。まるでむき出しになった刃物みたいに納まるのに反発して人を傷つけそうになって――」
なんだか一般的な魔血貴族の印象とはちがうなあ
当時のレヴィは単純にそう受け止める以上の感想はなかった
「母さんはあいつのこと好きだったの?」
その問いにユノは笑顔をうかべ頷いた。
「ええ、今でも好きだよ」
ずっと疑問だった。
どうして魔血貴族である父親は母さんを捨てたんだろう。
そして、母さんを忘れずっとのうのうと生きることを選択したのだろう。
それを思うとずっと父親が憎かった。いくら母さんが好きだったと言ってもレヴィにとっては許されない人物他ならなかった。
だが、そんな母を捨てたはずの父は、母が処刑される日会場にやって来ていた。
そしてレヴィとケンヴィードはお互いを知らぬ間に邂逅していた。
「お前が母を救えなかったように、同じような思いをしてる人間だっているんだ!だから命を無駄にするな!」
あの時掛けられたその言葉、それは紛れもなくあいつの言葉だった。
なんであの時気づかなかったのだろう。なんでそれを突っぱねてしまったのだろう
そして今――そのチャンスが再び訪れているんだ。
「無理だよ·····」
レヴィは声を震わせながら一言言った
「今更父親ヅラされたって、もう遅いよ。遅すぎる」
「ああ、そうかもしれないな」
ケンヴィードは低く押えた声でレヴィに語った
「お前に認めてもらいたいなんて無茶は言わない。それくらい俺は最低な父親だ」
最低な父親。レヴィはその言葉をに強い肯定感を覚えた。
だから余計ケンヴィードに反発を覚えた。
レヴィは抱きしめるケンヴィードの大きな身体を突き放す
そしてキッと彼を睨みつけると一言言い放った。
「俺には今まで父親いなかったし今でも父親なんていないんだ!」
レヴィのその一言にケンヴィードは何も言わなかった。
言えなかったのかもしれない。
だけど、そんな『父』の気持ちを突き放すようにレヴィはさらに言葉を続けた。
「サランド公爵閣下。もう俺なんかに構わないでくれ。その方があんたにとってもプラスなんじゃないか?」
「馬鹿を言うな。俺はお前を――」
「いいよもう!」
拒絶するようなその言葉。
レヴィは弱い気持ちを押さえつけるようにさらに強く言った。
「もう、俺のことは放っておいてくれよ……俺とあんたは元々他人以上にはなれないんだから」
そう言うとレヴィは首に巻いた不格好なスカーフタイを引き抜いた。
そしてそのままその部屋を出ていこうと踵を返したその時だった。
「一つだけ訊いていいか?」
ケンヴィードの不意のその言葉にレヴィの足が止まった
「あの時、何故ソフィアを助けようとしたんだ?」
あの時――それはこの前の誘拐騒動の事だろう。
それを聞いたレヴィは暫く沈黙を置いたあと日一言言った。
「後悔したくなかった」
「え?」
「自分の行動で後悔したくなかった。それだけだ」
その一言を聞いた瞬間、ケンヴィードは小さく笑みを浮かべた。
そして彼に一言感謝の言葉を投げた。
「ありがとう。レヴィ」
その一言を聞いてか聞かずかレヴィはそのまま大股で部屋を出ていく。
「本当に俺は最低な父親だな·····」
ケンヴィードはそんな彼を見送りながらそう苦笑するしか無かった。
分かり合えるわけがない。分かり合える方が奇跡に近いとは思っていた。
だが、こうしてようやく彼と巡り会った以上、これ以上彼を傷つけたくははい――それが身勝手な親の使命だとケンヴィードは考えていた。
「ケン·····」
その声にケンヴィードはそちらを振り返る
そこに居たのは、彼の妻シエラだった。
「あの男は何者ですの?」
彼女の顔は明らかな不快感が滲み出ている
だが、ケンヴィードは涼しい顔をしたまま彼女に残酷に告げた。
「俺の息子だ――」
その瞬間、シエラはケンヴィードの頬を思いっきり引っぱたいていた
「そんな人間はいません!」
まるで彼の存在さえ打ち消すようなその言葉。
だが、シエラがそう言う気持ちは分からないでもない。
輝かしきシエラの人生の中で彼女は唯一の汚点でしかないのだから。
「私は忘れた訳じゃなくてよ。ケンヴィード」
シエラは怨嗟にもにた声を出しながら一言言った
「あの女さえいなければあなたは本来ならもっと上の地位に楽に行けたはずですのよ。あの女が私たちの栄光の道を汚したの。それはわかってますの!?」
その言葉にケンヴィードは乱れた髪を髪をかき分けた。
そしてため息混じりにその言葉を否定した
「なにもわかってないのはお前の方だ。シエラ」
「な――!」
「お前に何がわかるんだ?異国へ踏み入れたユノの苦しみや悲しみ。そんな彼女から俺を奪ったお前に何がわかる?」
その一言にシエラは絶句する。
ケンヴィードはそんな妻シエラをいたわること無くそのまま部屋を出ていこうした。
「私はあなたの妻ですよ·····」
シエラは肩を震わせ小さくつぶやく
その言葉にケンヴィードはあえて肯定した。彼女がよく言う言葉で。
「ああ、俺の大切な
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