2話 父と子の再びの邂逅

 別にサランド公を殺したいほど憎んではいない

 確かに自分の母を勝手に捨てて無責任な男だとは思うし、いくら自分の父親とは言えど一生好きにはなれないんだろうなとは思う

 だけどそんな彼を殺したいほど嫌いかと言われるとそうではないというのが本音だ。

 本来であればもう接点のない人間、関わる次元にいる存在ではない相手。

 それが一番二人の関係としては最良の距離だとは思っていた。

 だけど――それが指令とならば、別だ

 自分は曲がりにも暗殺魔法士。魔血を狩ることが仕事だった。

 そして、この指令を成功させなければ自分がようやく手に入れた大切な女性が助けられない。

 そう知った際にはもうレヴィに逃げ道などなかった。

 殺るしかない。殺らないとセドナが殺されるかもしれない。

 もう二度と交わりを持ってはならない人間だとは思っていたけど、最悪な再会はすぐにやってきた。

 レヴィは石畳の道に仁王立ちするように待ちわびていた

 その男が通る車列は程なくしてその場に現れた。

 けたたましい馬の声が響くと馬上の白い服を着た女騎士リーザ・オノリコは目の前のレヴィを睨みつけた。

「貴様!何故ここに…!」

 リーザの高圧的な言葉が放たれた次の瞬間レヴィは掌を開き呪文を詠唱しだす。

 それに反応したリーザは即座に魔障壁シールドを張り巡らせる

 轟音とともに黒い火球を払い除けた瞬間辺りに張り詰めるような殺気という緊張感が走った。

「貴様…ケンヴィード様に命を救われたというのに…恩知らずな奴め!」

 馬から降りたリーザは両手で魔剣を構える。

 赤く燃えた長く幅広の刀身『フレアクレイモア』をレヴィに突きつけた

「…退けよ」

 だがそんなリーザを前にしてもレヴィはじっとうつむいたまま低く小さくつぶやいた。

「何…?」

「お前は相手にしない。いいからサランド公を出せよ!」

 レヴィのその一言にリーザは怒りをにじませ彼に向かって彼に斬りかかろうとしたその時だった。

「待て」

 空気を切り裂くように澄み切ったその声にリーザの体はピタッと急停止した。

 レヴィにとっての標的ターゲットはゆっくりと黒いブーツを鳴らしてこちらに近づいてくる

 レヴィは父である彼に向かって黒い刃を引き抜いた。

「ケンヴィード様!お下がりください!」

 女騎士リーザは主であるケンヴィードに向かって一言そう言い放った

 だが当の本人のケンヴィードは飄々とした表情で一言言った。

「でも、こいつ俺に用事があるんだろ?」

「ダメです!奴はケンヴィード様の命を狙ってるんですよ!」

 リーザの諭すようなその言葉だったが、ケンヴィードはため息交じりに一言言った。

「バカを言うな。こいつと俺はなあ…」

 そう言いかけたその時だった。

 ケンヴィードの背後に殺意に満ちた真紅の瞳が光る。

 もらった――レヴィはそう思い黒い刃を振り抜いた

 だがその刃は虚しく空を切った。

 レヴィははっとそちらを睨んだ。

 今のは魔法?いいや違う。こちらの判断を誤らせるほどの驚異的な身のこなしだ。

「なんの因果か知らないが。本気で殺り合うつもりか…」

 ケンヴィードは一言そう言うとゆっくり立ち上がった。

 そんな父を前にレヴィは黙ったまま1対の黒い刃である『双燕』を構えた。

「仕方ないな…あまり火遊びが過ぎると痛い目にあうぞ」

 次の瞬間、レヴィは1対の刃を翻しケンヴィードめがけて斬りかかった。

 だがその太刀筋は簡単に受け止められる。

 まるでその場に刃が収まることを予期したようにケンヴィードは宝剣『サラマンダーテイル』の炎の刃を顕現させていた

「ほう…面白い」

 ケンヴィードは口元に余裕の笑みを浮かべた

 そんな憎たらしい父の顔がレヴィには無性に腹が立った。

 レヴィはそんなケンヴィードを跳ね除けると反対側の手の黒い刃を振り抜く。

 だがその刃もまるで子供をいなすように受け流された。

「お前、いつ付与エンチャントを覚えた?」

 ケンヴィードのその問いにレヴィは怒りに任せ斬りかかることで答えた。

 それさえも見透かされているようにケンヴィードはその刃も軽く受け流してみせた。

「感情がそのまま出てる太刀筋だな…美しくない」

「…うるさい!」

 レヴィは思わず苛立ちの声を上げる

 弄ばれている。刃を交わらせてるレヴィだから思えるそんな戦い。

 何度も斬りかかる度、丸裸にされているような気分にさせられる。

 今までこの男が『烈火の剣聖』と呼ばれているのはただ単に魔力が高いだけだと思っていたが大間違いだ。

 素の剣術が至高の域まで到達しているからこその『烈火の剣聖』なのだと――

「お前。何を焦ってる?」

 鍔迫り合いを繰り返しながらケンヴィードはレヴィに一言聞く

 レヴィは咄嗟に答えたくないと思いその思いを跳ね除けるように炎の刃を弾き返した。

「うるさい!あんたには関係ないだろ!」

 そうだ、この男が死ねばすべてが解決する。

 セドナは返ってくるし、過去も精算できる。たとえ父親殺しになろうとも、そうしなければ未来はないのだ。

 レヴィは石畳を蹴るとそのまま弾丸のようにケンヴィードに向かっていった

 その一撃ですべてを片付ける――そんな最後の一撃を繰り出した

 だがそれは相手もそうであった。

 次の瞬間、放たれた刃は交差した。

 ケンヴィードはすべてを終えたように燃える赤い刀身をすっとかき消した。

「関係大有りだ。お前の親なんだから」

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