4章 命尽きるまで

1話 囚われのエリザーベド

 ふと目覚めるとそこは底冷えがするほど冷たい部屋だった。

 その場はとても豪奢な部屋に見えるようであるが肌から伝わる温度はまるで地下牢。

 その温度を知った瞬間、セドナは自分が囚われの身であることを否が応でも気付かさせられた。

 手足は枷をされてはない。逃げようと思えば逃げれる。

 だけどそれさえも諦めるしかない事実、自分を連れ去った相手が魔法騎士団団長イスラーグ・ジェラールだということ

 とすれば、ここは彼の屋敷なのだろう――

「やあ…気づいたかい?」

 その不意の言葉が降りかかりセドナははっとそちらを振り返った

 そこには豪奢な椅子に長い脚を組んで座っている一人の魔血の男がいた。

「あなたは…」

 セドナはその男の顔を見て冷えた拳をギュッと握りしめた。

 彼はまるで見下すようにふっと笑うと彼女をあの名前で呼んだ。

「そんな驚くことはないだろう?僕のエリザーベド」

 イスラーグのその一言にセドナは無性に腹が立つのを感じた

 セドナはキッと彼の顔を睨みつけると唸るような声で一言言った

「私はいつからあなたのものになったのよ…」

 その一言にイスラーグは困ったような笑顔を浮かべた。

「確かに成り行きで連れてきたって言われればそうかもしれないけど…君はもう僕のものだよ」

「何言って…ふざけないでよ!」

 その言葉に急沸騰するようにセドナは声を荒らげた

 だがその反応を面白がるようにイスラーグは声を上げて笑い出した

「そんな怒らないで。エリザーベド」

「だからその名前で呼ばないで!」

 その切り裂くような叫び声にイスラーグは少し困ったようにため息を付いた

「さっきも言ったけど、君はもともとバイデンベルク家の人間だ。その高貴な名を捨てるのはあまりにも勿体ない」

「あなたに何がわかるの!」

「君は何故バイデンベルクの名前をつかわないの?君の頭がもっとよければ革命運動で最大限利用できるとおもうけど…」

「もういい加減にして!」

 セドナはいきり立つようにそう叫ぶとイスラーグの前に立った。

「あなたに私の何がわかるの?!関係ないじゃない!」

「関係ない…か」

 イスラーグは含みを持った声でそう言うとふっと笑った

「君には関係ない話かもしれないけど、僕にとってはとてつもなく大事な話だよ」

「何がよ!」

「僕にとって君は紛れもなく義理の姉になるってことだよ」

 義理の姉になる――セドナは一瞬イスラーグの話は悪い冗談と流しそうになった

 だが、それは飲み込むにはあまりにも刺々しい事実であった。

 セドナは驚きのあまり言葉を失う。

 信じられないくらい悪い冗談とながしたいくらい衝撃的な事実であった

「君には双子の妹がいるよね。エリザーベド」

 衝撃を隠せないセドナに対しイスラーグは淡々と言葉を続ける

「シャルロッテ・ゼシカ・バイデンベルク。瞳と魔法の血以外は君と瓜二つの妹と僕は近々婚姻を結ぶ。君の父上ウディナ伯からの申し出だよ」

 その言葉にセドナは譫言のように一言つぶやいた。

「嘘…嘘よ。お父様は騙されてる!」

 そうだ、父親はこの男に騙されているのだ。

 貴族的な考えと言われればそうかもしれないが、由緒あるバイデンベルク家がどこの馬の骨と思えないこの男を婿と選ぶのは絶対にない。

 なにか弱みでも握られて脅されているとしかセドナには思わなかった。

「まあ、バイデンベルク家を出奔した君には関係ない話だったかな」

 イスラーグはため息交じりにそう言うと動揺を隠せない彼女を見た。

「でもどちらにしても君は僕の義姉だ。そんな君を無下に扱うことはしないから安心してほしい。それに」

 そう言うとイスラーグの口元が邪悪に釣り上がる。

「君には僕の『武器』を返してくれる重要な役割があるから。利用しないわけがないじゃない」

 その絶望的な一言にセドナはまた絶句する

 そうだ、この男のためにレヴィはひたすら血を浴びていたのだ。

 そして彼を再び自分のものにするため私を利用しようとしている――そう悟ったセドナは再び怒気を込めてイスラーグを睨みつけた。

「あなたの思い通りにはならない!」

 その言葉を聞いてイスラーグは高笑いを上げた。

「君がどう思おうが運命は変えられない!目障りな人間を淘汰し僕は次のステージに進むんだ!」

「意味がわからない!」

「せいぜい喚き散らせばいい。君は何もできない不完全魔血でしかない。どう頑張っても運命は変えられないよ。エリザーベド」

 イスラーグの耳障りな笑い声が冷たい部屋に響き渡る。

 セドナは無力感を否が応でも味わった。

 だけど、負けてはない。

 意味がないと言われようが運命が変えられないと言われようが、どんなことをしても流れを変える。

 そんな諦めない気持ちがただセドナを絶望から立ち上がらせる力になった。

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