3話 暗殺魔法士は死んだ
レヴィの手から『双燕』が転げ落ち石畳に乾いた金属音が響き渡った。
悔しいけど手も足も出なかった。
これが帝国の英雄『烈火の剣聖』との実力差と言われれば納得の話だが、レヴィには解せない気持ちでいっぱいだった
レヴィは悔しげに唇を噛むとケンヴィードを睨み返した
「何で――手加減した?」
レヴィはそのからくりがしっかりわかっていた。
刃が交錯するその瞬間、ケンヴィードは自らの炎の刃の
この男の実力であれば今の一撃が
なのに今の自分はほぼ無傷――つまり、この男によって活かされてしまっていたのだ。
「何で…って、殺す必要がないから…」
ケンヴィードは淡々とした声で一言言った
その口ぶりがレヴィには無性に腹が立った。
そのままケンヴィードを睨み上げると反発するように言い返した
「ふざけるな!中途半端に活かすくらいなら殺せ!」
そんなレヴィに対しケンヴィードはため息交じりに逆に問い返した。
「何故そんなに死に急ぐ?」
「は?」
「先程の戦いで分かった。お前は俺を殺したがってるわけじゃない。自らの死を求めて戦っているかのようだった…」
そう言うとケンヴィードはレヴィの方を振り返り言葉を続けた
「そろそろ教えてくれないか?レヴィ。お前はどうして俺を狙った?」
その問いにレヴィは悔しそうに唇を噛んだ。
言えば楽になれるとは思ったがそれ以上に言いようのない反発を感じていた。
「あんたに教えてどうする?俺は暗殺魔法士だ。理由なんて言うはずないだろ…」
レヴィは突っぱねるように一言層言い放つ
そんなレヴィを見てケンヴィードは小さくため息を付いた。
「――わかった。言いたいのはそれだけか?」
ケンヴィードは低くそう言う。
背後でボゥンと魔剣の炎の刃が顕現する音が響き渡る。
ああ、これで終わりだな――レヴィは小さく息を吐きすっと目を閉じた。
何も後悔がないと言われれば嘘になるが、暗殺魔法士として生きている現実から言えばこんな最期は見えていたのかもしれない。
それ故に妙に落ち着いてその時を待てたのかもしれない――
次の瞬間、目の前を真紅に燃える刃が横切った。
レヴィははっと息を呑んだ。
『サラマンダーテイル』はレヴィのすぐ足元に突き立てられていた。
「何で…」
目の前に突き立てられた炎の刃を見つめレヴィは動揺を隠しきれなかった。
その背後でケンヴィードは淡々と一言言った。
「暗殺魔法士よ…お前は今死んだ」
その言葉を聞いてレヴィはケンヴィードを振り返り憎々しく見つめた。
ケンヴィードは少し悲しげな表情を浮かべているように見えた。
「今のお前は全ての軛から解放された。今すぐそう思え」
そう言うとケンヴィードは突き立ててた炎の刃をかき消し踵を返した
そんな態度を見てレヴィは溜まりに溜まっていた不満が溶岩のごとく吹き出していくのを感じた
「あんたは本当に身勝手な男だな!」
レヴィはその怒りをそのままぶつけるかのように強く言い放った。
「何でも自分の都合で片付けるんじゃねえ!俺にも俺なりの都合があるんだよ!」
怒りを向けるレヴィの中で色んなものが頭の中でぐるぐる回った。
囚われたセドナのこと、処刑された母のこと、そして急に降って湧いた身勝手な父親のこと――いろんな感情が頭の中で混ざり合いそのままコントロールができなくなっった。
次第にレヴィの声は悲痛で歪んでいき自然と涙も溢れていった。
「何が勝手に解放だ?俺はもう逃げられないんだ!身勝手なあんたには俺の事情なんかわかるはずない。あんたを殺さないと俺の大切な
ひとしきり言葉を吐いたレヴィははっと我に返る
俺は何をこんなベラベラと喋っているのだろう――こんな男の前で、こんな弱気を吐いて。
「そうか…」
そんなレヴィを見てケンヴィードは一言そう言ってすっと立ち上がる
「お前も好きな女がいるんだな…」
何故だろう――そう言ったケンヴィードの声が少しだけ震えてた気がした
「レヴィ、お前の好きな女を攫った相手は誰だ?」
「え…?」
何を言ってるのだろう――レヴィはケンヴィードの言葉を不思議に思った
だがそれ以上の真意を探ることもできず、レヴィはびっくりするくらい素直に答えていた。
「イスラーグ…魔法騎士団団長イスラーグ・ジェラール…」
その人物の名前を聞いてケンヴィードは深いため息を付いた。
そしてそのまま踵を返すと目の前にいた女騎士リーザに一言言った
「リーザ、馬を貸せ」
その命令にリーザはその真意にすぐさま気づいた。
そして彼女は即座に反発するように諌めた。
「絶対になりません!ケンヴィード様!」
その諫言もケンヴィードは軽くあしらうように冷たく返す。
「別に俺は一線を超えるつもりはない。まあ相手次第だが…」
「絶対だめです。アイツならば間違いなくケンヴィード様の命を狙ってきます!それくらいケンヴィード様もおわかりでしょう!」
アイツならば――その一言にリーザもイスラーグが因縁の相手だということが伝わってくる。
だがそんなリーザの声もガッツリ無視するように馬に飛び乗るとそのまま疾走していった。
「どういうことだ…?」
レヴィはただ不思議そうにその様子を眺め見送ることしかできなかった
だが次の瞬間、レヴィは乱暴に馬上に担がれた
けたたましい馬は鳴く。その馬上には怒り心頭のリーザがこちらを睨んでいた。
「貴様も責任持ってついてこい!」
その言葉にレヴィは不思議そうに首をひねった
そんな理解度が進まない彼を見て苛ついたように馬の鐙を蹴りそのまま走り出した
「貴様の話でケンヴィード様がアイツのところに乗り込む気でいる…!もしものことがあれば貴様の責任だからな!」
そのまま彼女の白馬はケンヴィードの後を追うように全速力で走り抜ける
程なくしてレヴィもその事態の展開に身を震わせた。
ケンヴィードはあろうことかイスラーグに直談判しに行っている。
それがレヴィのためにしか動いてないことが、ただただ信じられなかった。
黒炎のレヴィ~武器として生きる少年は愛を知る ComiQoo @ComiQoo
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