EPISODE2 武器であるために

1章 父と子の邂逅

1話 断頭台の下で

一番見たくない夢を見た

降り注ぐ雨、泥でぐしょりとした地面、そして冷たい光を放つギロチン――

その場は忘れることが出来ない。母ユノ・リーゥがその露を散らした断頭台の下だった。

レヴィはその手にあの黒い刃『双燕』を握りしめそしてその赤い瞳できっと断頭台を睨みつけた。

レヴィはまだ諦めてなかった。母を取り返すことをに希望を見いだしていた。

そんな希望のような小さな野望を持ちながらレヴィは母の処刑会場へと足を踏み入れた。

だが、未だ齢8歳に満たない子供にやれる事はそう多くない。

もちろんその怪しい動きをする子供の存在に警備兵たちには筒抜けだった。

「やめろ!放せ!」

レヴィはいつの間にか魔血の警備兵に掴まれていた。

「おい、この異人の子供武器を持ってるぞ」

警備兵はいとも簡単にレヴィが隠し持っていた黒い短剣に気づいてしまう

もはや母を救うなど夢のまた夢。ここで自分の命運も尽きたのか――そう絶望が支配したその時だった。

「おい·····なんの騒ぎだ?」

その低い声に警備兵たちははっとそちらに視線を向ける。

そこに居たのは一人の魔血貴族。とても偉丈夫だがその風体には優美なものがあった。

「こ、これは公爵様·····」

その人物を見てそこに居た警備兵すべてが思わず平伏した。

公爵と呼ばれたその男は一人の警備兵に拘束されている少年を見てその深紅の瞳で警備兵たちに鋭い視線を向けた

「お前ら、この異国の少年を寄ってたかって捕まえてるのか?」

その蛇のひと睨みのようなその一言に警備兵は一気に震え上がる

その隙をレヴィは見逃さなかった。

警備兵の股間を蹴りあげるとその隙にするりと警備兵の腕から抜け出した

そしてその手に持った黒い刃を鞘から引き抜くとそのまま目の前の魔血貴族に向かい突進した

一瞬場が凍りつくのを感じた。

レヴィははっと我に返りその手を見た

傷は浅かった。浅かったどころかかすった程度でしかなかった。

「この異人のガキ!」

「公爵様になんてことを!」

警備兵たちのその怒気は一気に立ち上っていく

ああ、終わったな。母さんも救えずここで俺は終わるんだ――敗北感がレヴィを支配する中、その暖かい手はゆっくりと彼を覆った

「大したことは無い」

公爵と呼ばれたその男は一言そう言い放った

「しかしお怪我をなされたのでは――」

心配そうにその様子を見守る警備兵に彼は笑いながら言った。

「俺を誰だと誰だと思ってる?」

明らかに他の魔血貴族とは違う威圧感。

肌でそれを感じるくらいのものをその男は放ち続けていた。

その答えに警備兵は一気に萎縮しひれ伏した。

「お前らは別のところを警備に当たれ。この子供は俺に任せろ」

その男は一言そう言うと警備兵たちは三々五々その場から後にして言った

そして断頭台の下でレヴィはその男と二人っきりになっていた。

「――嫌だ!」

その男に拘束されても尚レヴィは抵抗し続けた

「俺は母さんを救う!救うんだ!」

「――いい加減にしろ!」

その不思議と強い一言は何故か孤立無援のレヴィの中に自然と染み入った。

男はそのままレヴィの小さな体を抱きしめ言った

「お前が母を救えなかったように、同じような思いをしてる人間だっているんだ!だから命を無駄にするな!」

その瞬間、だった。

ザンッ!と残酷な刃が振り下ろされる音が辺りに響いた。

救えなかった。それを思い知らされた瞬間レヴィのその深紅の瞳から涙がこぼれ落ちた

「嫌だ·····母さん·····母さんを返してよーっ!」

次の瞬間、レヴィはその男を突き飛ばしゆく宛もなく泥の道を走り出した。

心が引き裂かれながらレヴィはただ走り続ける。

それは解き放たれた刃のごとく。全ての魔血を狩ることしか出来ない武器としてのレヴィの誕生の瞬間だった。

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