6話 ラボラトリー
レヴィはそのまま部屋の奥のランクスの書斎へと通される
とはいえここも本や書類が微妙なバランスで山積みされており、相変わらず綺麗とは言えない部屋だ
もしかしたらランクスは片付けるのが下手なのかそれともこの状況が落ち着く空間なのか――彼の嫁であるカラが口うるさく言うのもわかる気がした
「いやーごめんねー。散らかってて」
そう言うとランクスは部屋の奥の書斎椅子に座る
そしてその隣の椅子にレヴィに座るようにぽんぽんとそれを叩いた
「あそこにはちょっと厄介な奴がいるからねー。ちょっとここまできてもらったよ」
「厄介な奴?」
「そうそう、あの革命バカに気づかれると色々厄介だってセドナの計らいさ」
それを聞いてレヴィの頭の中にデイヴィッドという謎の男が浮かんだ
「あの男は何者なんだ?俺が夜美ノ民の将軍がなんたらって言ってたけど――」
その言葉を聞くとランクスは少しため息をついて言った。
「まあ話すと長くなるけど、デイヴィッドとセドナは魔法帝国を内から打倒するための非魔血革命組織『パルチザン』の一員。デイヴィッド・リンガーはさらにそこのリーダーだ」
「革命――?パルチザン――?」
それは聞き慣れない言葉のオンパレード。
今まで通り生活していたらたどり着きそうもない世界に来てしまった。それが素直な答えだった
「まあこの俺も一応『パルチザン』のメンバーなんだけどな。あ、このこと魔血の偉い奴に言うなよ」
ランクスはそうレヴィに釘を刺すと机の上の煙草箱から煙草を取った
「ただね、ここだけの話『パルチザン』って組織も一枚岩って訳じゃなくて、強行的な革命論者のデイヴィッドは他国――夜美ノ国の協力を利用してでも武力革命を目指してるらしいけど、セドナはちょっと違う考えを持っているようだけどな」
そう言うとランクスはマッチで煙草に火をつけた
「それに君が夜美ノ民と魔血のハーフとかあそこで暴露しちゃったら、魔血抹殺論者のデイヴィッドがどういう反応するかわからないからな」
その一言を聞いてレヴィはその顔を強ばらせる
ランクスはそれを見て軽く笑った。
「警戒しないで。さっきセドナから大体聞いたよ」
「それで俺を実験材料にしようと……」
「やだなあ。人聞きが悪い。ちょっとした協力だよ」
そういうとランクスは笑み混じりに煙を吐いた
「レヴィ、君はこの魔法帝国――否、アルディア大陸の中でも稀有な存在に間違いない」
その言葉にレヴィは呆れたように返した
「ただ混ざっているだけじゃないか·····」
「いやいや、そこが間違った考えだって言ってるんだ」
そう言うランクスの紫色の瞳は一際鋭く光る
それは先程までのおちゃらけた感じは微塵と感じない。
おそらくそれが本来の彼なのだろう。
「もし俺に協力してもらえるのであれば恐らく君のお父さんを探すのはかなり容易になると思う。だから俺に協力して。君の血液サンプルが欲しいんだ」
その言葉にレヴィは強い反発を覚えた。
明らかに不快な顔を浮かべると浮かべるとその場から立ち上がった。
「別に父親になんか今更会いたくなんかない」
そう言うとレヴィは深紅の瞳でランクスを睨みつけた
「俺の血で何を企んでいるか知らねえけど、俺はそんな甘い餌には食いつかない。あんたに協力するギリなんてなんにもない」
「そうかあ·····それは残念だ」
そう言うとランクスは煙草の煙を吐くとチラッとレヴィを見た。
「だけど真実がそこにあるのにそれから目をそらそうってしてる君だけど、俺から見たらただ逃げてるだけで許せない気持ちになるんだよなあ」
その言葉を聞いてレヴィは初対面のランクスに全て見透かされている気がしてならなかった。
それ故にその視線に蓋をしようとレヴィはその目を逸らした。
「最後に聞きたい事がある」
レヴィは言葉少な一言言った。
「カラっていうあの女あんたの嫁か?」
そう言うとランクスはニヤッと笑みを浮かべ言った。
「そうだよ。めっちゃ美人な俺の嫁さんだ」
その言葉を聞いてレヴィはふと先程カラに言われた言葉が脳裏に過った。
『リーヴ·····
あの女はどうして母のことを知っていたのだろう。そして
「聞かれる前に言っておくけど」
ランクスはそんなレヴィの心理を読み取ったかのように言った
「カラは夜美ノ国出身の元暗殺者だよ。彼国ではそこそこの地位にいた元軍人でもある。まあ魔法帝国から言わせれば彼国のスパイだったってことになるね」
ランクスはその情報を惜しげも無くつらつらと言い放った
あまりにも重大で膨大な情報にレヴィは思わずたじろぐほどだった。
「大丈夫、暗殺者もスパイも完璧に足洗ってるから」
「んなわけないだろ」
レヴィはそういうと不審げな目でランクスを見た
「あんたそんな得体の知れない女とよく傍におけるな。足洗ったって言っても敵国と繋がってるかもしれないんだぞ」
「大丈夫、大丈夫」
レヴィのその言葉にもランクスは余裕の笑みを浮かべた
「さっきも言っただろ俺も一応革命派だよ。魔血貴族なんかよりずっと夜美ノ国のスパイの方が俺にしてみたら毒がないように見えるけどね」
そう言うとランクスは純粋なキラキラした目してさらに言葉を続けた。
「それに俺、カラのこと信じているから。もう人殺しはしない事と彼国と関わらないことをね」
なんだろう……
そんなランクスを見てレヴィは不思議な気分になった
多分おそらくそれが愛ってやつなのだろう。
だけどレヴィがその大切さに気づくことなかなかできなかった
「話しが逸れたね」
そう言うとランクスはから笑いして煙草を灰皿に押し当てた
「カラが夜美ノ国の人間であるから君の母親のことも少なからず知っているんだろうね。君のお母さん、ユノ・リーヴは彼国ではかなり名門の出身らしいし」
その一言を聞いてレヴィの胸は思わずざわついた。
自分の知らない母の姿――それを知ってる人間がいると思うだけで心は激しく波打った。
「ほら、やっぱり」
そんなレヴィを見てランクスはニヤッと笑った
「人間知的好奇心って奴には逆らえないんだ。それはどんなに蓋をしてもでてくるやつなんだ」
レヴィはランクスに見透かされているような気がして不満げに彼から目をそらす
そして悔しげに一言呟いた。
「俺は……知りたくなんかない」
「へえ、そうかい」
そう言うとランクスは呆れたように笑った
「だけど俺には見えるよ。君がそのうち自分の出生を知りたくなるその時がね。まあその時が君が俺に協力してくれるその時だと思うけどね」
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