6話 3人目の暗殺魔法士

「ねえねえ、イスラーグ。ほんとにその人たち来るの?」

 そんな少女の訝しげな声が暗闇が支配しつつある夕暮れの部屋に響いた

 魔法騎士団長イスラーグはワイングラスを傾けながらそちらをちらりと見た。

 そこに居たのは少し貧相な身体をすこしセクシーなボディスーツに身を包んだ金髪の魔血の少女だった。

「さあ、どうだろうね」

 イスラーグはそう言うとグラスに入ったワインを一口飲んだ。

「一応来いとは使い魔で知らせといたけど、彼らの操縦は難しいからね。素直に来てくれるかどうか――」

「ふうん」

 そう言うとその少女は意地悪そうに笑った

「あんたほどの男が操縦しきれない部下なんているんだね」

「部下·····ね」

 彼女のその言葉にイスラーグは冷たい笑みを浮かべた

「彼らは部下でもなんでもないよ。正しくいえば武器だ」

「武器·····」

 その言葉に彼女の笑顔がちょっとだけ強ばる

「あんたにとっちゃ私もやっぱり武器に過ぎないんだろうね」

 その一言にイスラーグは当然と言わんばかりの笑みを浮かべた

「そうだね。君に利用価値がある以上僕の武器に代わりがないよ」

 利用価値――彼女はその言葉に引っかかったがそれ以上何も言わなかった。

 彼女には十分自分の立ち位置を弁えていた。

 この男には逆らえない。逆らうことが出来ないことは重々承知だった。

「しかし、彼ら遅いねえ」

 そういうとイスラーグは机にワイングラスを置いた

「僕が時間厳守を求めてるの知ってるはずなんだけど――」

「ごめーん!」

 その明るい声は彼の部屋のバルコニーから響いた

 その手すりに今日にしゃがんでニヤニヤしてる赤髪の少年――死の血の暗殺魔法士ザガロ・ディアルグレイだった。

「ちょっと野暮用があってさーそれを片付けてたら時間押しちゃったー」

「野暮用·····ね」

 その一言に引っかかったようにイスラーグはふふっと笑った。

「ガッツリ実家に帰ってたみたいだけど、それでも野暮用なのかな?」

 その一言を聞いてザガロのニコニコした顔が微弱に引きつった。

 だが、それを気づかれないように取り繕うとまた満面の笑顔を浮かべ言った

「所でレヴィはまだ来てないのかな?遅刻厳禁って言ってるのに」

 そう言いつつザガロはイスラーグの部屋をキョロキョロと見回す

 そして、見つけてしまったのだ。

 彼の部屋の奥に一人の魔血の少女がいることに

「あれー?」

 その瞬間、ザガロは一瞬でバルコニーから彼女の元へと移動し、そして彼女の前で一礼した。

「こんなところに、こんな綺麗なお嬢さんが·····ところで君だあれ?」

 ザガロのその態度を見て彼女は思いっきりドン引きしていた。

 何こいつと言わんばかりの顔で彼を見ていた。

「あーごめんね。まず僕から名乗る奴だよねー。僕、希少属性魔血レアブラットである死の血の魔血、ザガロ・ディアルグレイだよ。ところで君は――」

「うるさい!」

 その瞬間、彼の口を塞ぐように黒手袋の手が襲いかかった

「お前はいちいちウザイんだよ!少しは黙れ!」

 そこに居たのはいつの間にかその輪の中に現れていたレヴィだった。

「なんでー。女の子がいたら全力で口説かなきゃ·····」

 レヴィの邪魔にザガロは不満げにそう言った

 そんな激烈陽キャの相棒を見てレヴィは深いため息をついた。

「お前、ここで口説くとかほんと頭お花畑だな。そう言うのは街でやれ――」

「あれ·····」

 そんなふたりの前に魔血の少女は不思議そうな顔をしてジロジロと眺め始めた

 ザガロはそんな彼女に愛嬌を振りまいていたが、レヴィは相変わらずの仏頂面だった。

 そしてそんな二人のうち彼女が興味を持ったのは――

「もしかして、あんたレヴィ?」

 その言葉を聞いてレヴィはキョトンとした表情を浮かべた。

 彼には思い当たる節がなかった

 金髪碧眼の魔血の少女にこれと言った記憶がなかったのだ

「やだ、私の事忘れちゃったの?」

 彼女はレヴィの顔を除くと少し得意げな表情を浮かべ言った

「昔、私の屋敷で一緒に遊んだよね。あんためちゃくちゃ泣き虫で毎日お母さんに励まされてたよねー。そんなレヴィがこんな大きくなったんだねー。

 ほんと時の経つのって早い――」

 彼女の口から出る小さなヒントをレヴィは解つまみながら記憶の糸を辿る

 母さんが死ぬ前に、魔血貴族の屋敷で、よく遊んでた女の子――記憶の奥底にその記憶はあった。

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