6話 闇火竜《ダークサラマンダー》

 何故それを喚べたのかはわからない

 だけど、その感覚は強く自分の身体が覚えている

 それは怒り狂った自らの血そのものだった。

 だけど何故それほどまで怒っているのか自分でも分からない

 ただソフィアが傷つけられた、それを見た瞬間、何故か怒りの感情が沸いた。

 ただ、知り合ったばかりの見知らぬ魔血の少女なのに、どうしてか怒りの感情が爆発した

 その瞬間、怒り狂った血はそれを喚びさました

 召喚獣『火竜サラマンダー』――否、自分の特性をも吸収した『闇火竜ダークサラマンダー』を。

「なんだと·····」

 岩巨人ゴーレムの掌をこじ開けた黒い炎にアキラは驚愕した

 その場に顕現したのは闇のような炎を纏った黒い竜。見たことも無い召喚獣だった。

「あれは·····火竜サラマンダー?」

 傷つき倒れたソフィアはその竜を見て呆気に取られていた。

 間違いなくそれはティアマート家の守護聖獣である火竜サラマンダーには間違いない

 だけど何故――?何故ただの敵対する暗殺魔法士の彼が火竜サラマンダーを喚べる?

 ティアマート家の人間しか召喚できない守護聖獣を。

 だが、レヴィはその懸念を払拭するようにその手を横に翻した。

 そして深紅の瞳をゆっくりと開くとまた闇火竜ダークサラマンダーは咆哮した

「召喚が使えるくらいでいい気になるな!小僧!」

 アキラはそう言うとその肩に乗った岩巨人ゴーレムに命令する。

 この竜を粉砕しろ――と。

 次の瞬間、岩巨人ゴーレムは重量感満載の岩石の腕で闇火竜ダークサラマンダーの顔面を殴りつけた

 だがその一撃はあっさりと闇火竜ダークサラマンダーの手により受け止められる

 それと同時に岩巨人ゴーレムは反対側の岩石の拳を闇火竜ダークサラマンダーに叩き込もうとうごいた

 だがそれさえも見きったように闇火竜ダークサラマンダーはその拳を拘束するように黒い手で掴みかかった。

 生まれて初めて召喚獣を喚び出したレヴィだったがその表情は冷静そのものだった。

 どのように闇火竜ダークサラマンダーを操縦すればいいか、どのようにすれば勝てるのかが手に取るようにわかっていた。

 まるで闇火竜ダークサラマンダーと心が通じ合うかのようにレヴィはその右手をかざした

 全てを灼け――そう闇火竜ダークサラマンダーに命令した。

 その瞬間、闇火竜ダークサラマンダーはけたたましく咆哮する

 そして岩巨人ゴーレムをその腕でがっちり拘束したあとあろう事か岩巨人ゴーレムを抱えたままその上空へと登り始めた

「くそっ!嘘だろ!」

 アキラは焦ったように吐き捨てた

 何かの間違いだろう。岩巨人ゴーレムを地面から引き抜くなんて――

 地の血の魔法の根源は大地の力。それから離されることが唯一の弱点だった。

「踏ん張れ!岩巨人ゴーレム!こんな奴大したことない――」

 そう鼓舞しても、その力からは逆らえなかった

 岩巨人ゴーレムは徐々に地面から剥がされていく。

 そして剥がされたその面からゆっくりと崩壊し始めた

「とどめだ·····」

 レヴィは一言そう呟いた次の瞬間、闇火竜ダークサラマンダーはその大きな口を開いた。

 そして崩れかけている『岩巨人ゴーレム』の岩の顔面めがけて黒い火炎を吐き出した。

 負けた――?

 崩落していく『岩巨人ゴーレム」の上でアキラは呆然とするばかりだった

 その左顔面は先程の黒い炎で焼かれていた

「嘘だろ·····俺が·····負ける?こんな混ざりものに負ける――だと!」

 アキラは悔しそうに叫んだ。

 認めたくない。認める訳には行かない。こんなハーフ魔血ごときに魔法騎士団のエースである自分が負けるはずがない。負ける訳にはいかなかった――

 だが、それは紛れもない事実だった。

「くそ――!」

 その深紅の視線を感じた次の瞬間、アキラは素早く転移魔法陣テレポートサークルを描く

 そして岩巨人ゴーレムが完全に崩れると同時にその場を緊急脱出していった。

 はらはらと砂へと変化し崩れ去り消えていった岩巨人ゴーレム

 それとほぼ同時に、レヴィが操っていた闇火竜ダークサラマンダーもそのまま彼の身体の中へと吸収されるように消えていった。

 そして、レヴィもまた全ての力を使い切ったかのようにその場に崩れ落ちた

「レヴィ――!」

 その様子を見ていたソフィアは自らの傷を抑えながら彼の名を呼ぶ

 だが深く傷つきさらに毒も回り始めた彼はそれに答えない

 どうしよう――ソフィアは思わず涙を浮かべた。

 このままじゃ彼は間違いなく死んでしまう。はやく――なんとかしないと。

「ソフィアそこに居るの!」

 その聞きなれた声にソフィアは顔を上げる

 そこにはティアマート家の近衛騎士のリーザが駆け寄っていた。

「リーザ!」

 ソフィアはリーザの姿を見た瞬間、彼女に抱きついた。

 そして涙を流しなら懇願した。

「お願い!彼を救って――!」

「でもソフィアも怪我しているじゃ――」

「私は後回しでもなんでもいい!彼を殺さないで!お願い!」

 ソフィアはリーザの胸の中でただただ泣きじゃくった。

 これ程までにどうして彼を想うのか理由はよくわからない。

 だけど切っても切れない絆がレヴィとソフィアには出来上がっている。そう信じてやまなかった。

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