4話 革命と戦争

「あー。若いっていいなあ」

2階の熱く愛し合う若い二人を眺めるようにランクスはタバコを咥えたまま天井を仰いだ

「ちょっとランクス。さっきからそればっかじゃない!」

そんな煩悩を丸出しの旦那をみて呆れたように言ったのは彼の妻のカラだった。

「どうせやるなら別の場所でやればいいのになあ…よりによって俺の家でやるかー?」

そんなランクスのボヤキにからは呆れたようにカラはその場にあった分厚い専門書でランクスの頭を軽く叩いた。

「あんたさあ、そんなに欲求不満ならあたしが相手になろうか?」

「え?カラちゃん今日はやる気――」

 その瞬間ランクスはメガネを押し上げると目の前のカラの褐色肌をまじまじと見た

「そんなにやる気なら俺も考えないわけには――」

「あー。でも今日はちょっとだめかも…」

だが急に渋りだすカラにランクスは「は?」っとマヌケな声を上げる

カラは恥ずかしげに褐色の肌の頬を赤らめるとランクスに一言言った

「あたし、もしかしたらできちゃったかもしれない…」

「え?」

その事実に頭脳明晰なはずのランクス答えを導き出すのにかなりの時間を要した。

しばらくの間、ランクスは沈黙したあと、うやむやにメガネを押し上げるとカラを見た

「俺の子?」

 その問いにカラはひとつ頷いた

 次の瞬間ランクスは飛び上がりまるで子供のように大喜びだした。

「よくやった!カラ!俺ついに父親になるんだな!もうめちゃくちゃ嬉しいし俺みたいな天才の遺伝子を残せるなんて最高じゃないか――」

「あ――」

その瞬間、研究工房ラボラトリーの扉が呼び鈴とともに開いた

カラとランクスはそちらをはっと振り返る。

そこには、先程魔血憲兵の襲撃の原因の現況のごとき人物が立っていた

「よう。おふたりさん」

背が高く傷痕が残る筋骨隆々の義手の男、魔血からは最も恐ろしく破壊的な異端者と言われる男、デイヴィッド・リンガー。

彼がなんの悪びれもなくドアのそばに腕組みして二人を見ていた

「デイヴィッド…」

次の瞬間ランクスの胸の中になんとも言えない怒りにも似た気持ちが湧き上がった。

「お前、何を悪びれもなくよく俺の前に出てこれるな!?お前のせいで大変な目にあったんだぞ!」

ランクスは怒りを隠すことなくデイヴィッドに食いかかる

だが当のデイヴィッドはそんなランクスを宥めるようにニヤニヤ笑った

「俺のせいでだいぶ災難だったな。まあ何事も無かったしよかったじゃないか?」

「その言いよう…どうやらお前ここで何があったか知ってるみたいだな」

苦々しくランクスが一言言う。

デイヴィッドは得意げに唇を釣り上げると部屋にあるソファに座った。

「まあな…影で見てたっていうのが正解かな?」

「はあ?だったらお前、黙って見ていただけって──」

食ってかかるランクスをいなすようにデイヴィッドはすっと手をかざした。

「まあ怒るなって」

そう言うとデイヴィッドはタバコを咥えた。

「まあそのお陰で良いもんは見せて貰えたけどな」

「いいもの──?」

デイヴィッドはタバコに火をつけるとふーっと煙を履いた。

「この前、お前の家に居た夜美の民の形をしたあの男…半魔血だったんだな」

その言葉をいうデイヴィッドの瞳は恐ろしいほど鋭く冷たい

ランクスはそれに息を飲みながら肯定するしかできなかった。

「本当に見た目で騙されているのが魔法帝国の民だと言ったけど、俺自体が騙されてちゃまだまだだな」

デイヴィッドはそういうとため息混じりにタバコの煙を履いた。

「で、その半魔血はまだいるのか?」

デイヴィッドのその一言にランクスの表情が凍りつく

だがそれを隠すように軽く笑った。

「さあ、帰ったんじゃないか?」

「ふーん…」

その言葉にデイヴィッドは含みをもったようにひとこと頷く。

「そういや今日セドナは見当たらないけど…」

「…さあ、今日はあのあと見てないけど…」

「ふうん…なら仕方ないか」

デイヴィッドは含みを持たせるように一言そう呟く

恐らくコイツには俺の嘘は見抜かれてそうだな…ランクスはそんな気持ちを持ちながら強ばった笑みを浮かべた。

「で、デイヴィッド…どう考えても憲兵からマークされてるウチによく来ようと思ったな」

「ああ、その話?」

そう言うとデイヴィッドはパチンと指を鳴らした

次の瞬間、彼らの前に一人の女性がふらりと現れた

漆黒の長い髪に褐色の肌、それは夜美ノ民の女性だった。

「あんた…!」

その女性を見た瞬間、気色ばったのはカラだった

明らかに殺気だった彼女をランクスは静止するように手を横にあげた。

「これは、夜美ノ国の常勝将軍シャ・グンザン殿の右腕であり愛娘でもある女傑ズーナ殿…」

噂には聞いていた。夜美ノ国のシャ将軍の手回しで魔法帝国内に工作員を放っていると──

だがそれが自分の右腕と言うべき側近であり実の娘まで派遣しているのはあまりにも予想外だった

「あなたが魔法帝国の報われない天才で名高いランクス・ノエル博士?」

シャ・ズーナと名乗る美女は冷静な口振りでランクスに一礼した

報われない…は余計だ。と言いたげな表情でランクスはメガネを押し上げながらソファで寛ぐデイヴィッドを睨んだ。

「お前、本当に何を考えてるんだ?」

「何って…この腐った帝国を変えただけだが?」

「その前に!その陰謀とやらで俺の家をめちゃくちゃにするつもりか!」

その一言にデイヴィッドはタバコの煙をふーっと吐き出し言った。

「ランクス。お前変わったな?」

デイヴィッドのその一言にランクスは言い返そうとしたがその前にデイヴィッドはランクスの目の前に立ち言った。

「まあ妻帯者になったお前が変わるのは当たり前っちゃ当たり前か…」

そう言うとデイヴィッドはニヤッと笑いながらランクスの胸をツンと叩いた。

そんなデイヴィッドをランクスはジロっと睨んだ

「あ、生活がめちゃくちゃになるって言う反論はもう無用だぞ。ここを見張ってた憲兵は俺とズーナで片付けておいた」

「はあ?」

「魔血とは言っても所詮は魔法の力しかないヒヨっ子だ。魔法に頼り切る帝国の末路を見てるみたいだったぜ」

得意げに話すデイヴィッドを見てランクスはただ苦々しく彼を見て一言言った

「お前。本気で魔血どもに戦争でも仕掛ける気か?」

その一言にデイヴィッドはひとつ不気味に笑った。

「戦争。言い方によればそうかもしれないな」

そう言うデイヴィッドの前に夜美ノ民の女傑ズーナが彼の耳元で言った

「それは言い過ぎよ。デイヴィッド」

だがデイヴィッドはそんな彼女の声も聞こえてないようにさらに言葉を続けた

「俺はこの腐った帝国を壊してみせる。どんな手を使ってでもな!」

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