5話 幸福の約束

「レヴィ」

 清々しい朝の中、研究工房ラボラトリーを出たレヴィを彼女は呼び止めた

 ふと振り返るとそこには愛しき人セドナの姿。

 セドナはそのままレヴィ抱きついた。

「おい、やめろ。朝から恥ずかしいだろ」

 レヴィは明確に恥ずかしそうにそう一言言って嫌がる。

「やだ、本当は満更でもないのに」

 そう言うとセドナは意地悪そうに笑った

 まあ、確かにそれはそうなんだけど…レヴィは痛いところを疲れたように何も言えずブスっとふくれた。

「あのさあ、レヴィ」

 セドナはそう言うとレヴィを見た

「私、ランクスの家を出てあなたと暮らしたいなー」

 そんな彼女の願いをレヴィはちょっと困ったように頬を掻きながら返した

「俺と暮らして楽しい?」

 そんな問いにセドナは少し怒った表情を浮かべてレヴィを見た

「バカ言わないで!楽しいに決まってるじゃん!」

 そう言うとセドナは楽しそうにレヴィの腕を取った。

 そんなセドナを見てレヴィは恥ずかしい気持ちが強かったがそれ以上に彼女が愛おしく思えてならなかった。

「ねえ、レヴィ」

 セドナは一言声のトーンを落として言った。

「ひとつ約束してほしいことがあるんだ」

 その言葉を聞いてレヴィはちらっとセドナを見た

「なんだよ。約束って…」

「もう誰一人人の命を奪わないで欲しい…」

 その言葉にレヴィは深紅の瞳を思わず見開いた。

 彼女は真っ直ぐな金色と紫の視線で彼をじっと見ていた。

「それは…」

 その一言にレヴィは即答できなかった。

 それが少し悔しくもあった。

「わかった。その答え直ぐに答えなくていいよ」

 そう言うとセドナはまたその表情を隠すようにニコッと笑った

「私あなたが変われるまでずっと待つよ。だから少しずつでいいから私のお願い聞いてね」

 その願い事の前にレヴィは拒否することなどできるはずもなかった

 彼は小さく黙って頷く。それを見てセドナはまるで太陽のような笑顔を浮かべて彼の腕に抱きついた

「ありがとう!レヴィ!」

 なんだろう。俺こんなに幸せでもいいのかな…

 そんなセドナの笑顔をみながらレヴィは心に落ちる影を感じ取っていた

 今まで幸せとは真逆の位置にいた自分にこんな幸せになっていいのだろうか?

 それが許されるような人間には絶対なれないのに。

「レヴィ?」

 そんなレヴィとの温度差を感じたのかセドナは彼表情を覗き込んだ

 その瞬間、レヴィは失いたくないと思った。

 そんな真人間には絶対なれないけど、許されるのであればセドナだけは失いたくない

 そう思った瞬間レヴィは怖くなった。

 彼女を失いたくないという感情で頭が恐怖でどうにかなりそうだった。

 瞬間、レヴィはセドナの細い体をぎゅっと強く抱き寄せた

「ちょっと、どうしたの?」

 急なレヴィの態度にセドナは困惑の顔を見せた

 だけど、セドナはそれに逆らうことなく素直に彼に体を預けた

 今はこの幸せを噛み締めておきたい。レヴィは心の奥底でそう思った

 それが泡沫の幸福であっても。その時間を大切にしたいと思った。

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