第5接種「俗人の選択」
カコ改め、自称魔王は黒い球体を右手の中に生成する。光をも吸い込み、圧倒的な
「なんじゃ、良いのか? 苦しまぬように一瞬で
目にもとまらぬ速さで飛んできた黒球を俺は、なんとか
「ほう、
――じゃ!?!?
「魔王は二回攻撃なんて誰が決めたんだよ!」
――ヘルオブデスファイア!
魔王カコが次の一手を繰り出す前に、俺は街で使用した炎よりももっと強大な炎を魔王に向けて撃ち放った。
無論、こちらも容赦なく殺すつもりで焼き払った。骨まで焼き尽くす気概で、魂をも燃やし尽くす勢いで、悪を打倒する覚悟で挑んだ。
――それなのに。
「今のはなかなかに良かったぞ。だが、わっちには効かぬ。はっはっは!!」
無傷だ。おまけに、仁王立ちで
「…………」
言葉は無用だと言わんばかりに、無言で先ほどよりもさらに大きな漆黒の球体を生成するカコ。蔑むような、興覚めしたような、白けたような眼差しでカコは俺を突き刺す。今度は逃れられない。それは直感ではない。体の奥底から、死の信号が送られてくる。
――確実に死ぬ。
俺には唯一の選択肢があった。
今回はいつものように、二つも打開策が用意できたわけではない。この唯一の選択肢だってただの賭けだ。
この選択によって、確実に死を回避できる保証はない。
「やるしか……ないよなァ!!!!」
俺は隣で黙って行く末を見守っていたチオをひょいと抱えて、自ら魔王カコの黒球へと飛び込もうとした。
「……んなっ!」
カコの動きが緩む。動揺している、俺がまさか自分から飛び込むなんて予想できなかったのだろう。そして、この後、起こることも……
「予想できないはずだろ!」
俺はチオを思い切り、カコにぐいぐいと押し付けた。霊体であるチオは肉体であるカコの内部に入り込むことができると考えたからだ!
予想通り、霊体であるチオはカコの中に吸収されていった。先ほどまでの獰猛な目つきはなくなり、体からどんどん力が抜けてきているようだ。
「俗人!覚えておけ!いつでもわっちはお前を……」
末期の言葉を発するのはどうやらカコだったらしい。そのままぱたりと倒れて動かなくなった。
「こう見たらただの幼女なのにな……」
魔王がチオとカコの二人で一人で良かった。チオがいなければ、カコを止める術はなかった。危うい戦いだった……
「まあ、まだ終わってないけど……」
だが、あの場面ではそうするしかなかった。そうしなければ死んでいたんだ。仕方がない。そう、仕方がないんだ。
自分で自分を納得させようとしている。それを分かりつつも、そうでもしないと心が落ち着かない。
「あれ……これもしかして……また封印しちゃった感じ……?」
ピクリともしない
目の前の幼女の顔を見ていると、ただ気持ちよさそうに昼寝をしているだけのように見える。こんな小さな身体のどこにあれほどの力があるのだろうか、そうまじまじと見つめていた。
――その時だ!
「ムダイ! ムダイ!」
「うわあわあああああああああああああああああああああああ!!」
今までのは死んだふりでした的なノリで、幼女の
目覚めて急に俺の名前を叫ぶなよ。まったく心臓に悪い……
「って……ムダイ? どうして俺の名前を……?」
「ムダイ!チィ・ウォ!チィ・ウォ!」
どうやら、賭けは成功したらしかった。俺の良く知るポーズで、元気よく反応するチオ。
やはり意志は霊体であるチオに依拠するらしく、邪悪な魔王カコは消滅してしまったようだった。
「チオ、無茶してすまなかった……」
選択肢がなかったとはいえ、無理やりチオとカコを融合したのだ。まずは一言、謝罪すべきだ。
「いや、ムダイはあれで良かった。そうしなければこの世界はカコに支配されていたかもしれない」
――カコ、悪い奴だから。妹だけど。
「いもうとォ!?!?」
驚くところがそこかよと言われそうだったが、チオが姉だったようだ。個人的にはチオは妹でいて欲しかった。
「なんにせよ、ムダイ。ありがとう……」
チオは随分と流暢に話ができるようになっていた。カコという肉体を手に入れたからだろうか。やはり今までは半人前の力だったということなのだろう。
「まあ、チオが目覚めたのはムダイのせいなんだけど……」
「え……?」
話を聞くと、どうやらこの世界の均衡を最初に破ったのは俺らしい。この森に突如俺と言う異物が、それも強大な力を持った異界人が現れたせいで地下深く封印されていた
「でも、丁度いい。現魔王を倒しにいこう。ムダイ」
さらりと幼女チオは言った。
「もう一度言ってもらっていいか? チオ」
「魔王を倒しにいこう」
顔色一つ変えずにチオは言う。
「え? 魔王、まだいんの????」
俺の冒険は魔王一人を打倒した程度では終わらないらしい。
「もちろん! 行こう!!」
俺はチオの誘いを断ることはなかった。なにせ、何でも請け負う破鬱無大だ。依頼も仕事も、冒険の誘いだってなんでも受けてやる!
これから始まる物語に夢や希望を抱いていたのだろう。
チオと二人でなら、どこにだっていける、何だってできる、そんな気がした。
「さあ、行こう! 魔王討伐の旅の始まりだ!!」
意気揚々と、俺は両手を突き上げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます