第38接種「絶対感染」

 灰田には分かっていた。ここでミュウカと自分が果てることが。なんとなく分かってしまっていた。ここで彼女を庇ったところで、未来は変わらない。自分たちはここまでの人生なのだ。


 そのことが漫然と朧げに理解できていた。


「ミュウカ……やっぱ、パイータたちはここまでだわ……」


 ファイザの握っていた剣、その剣を見ていると足が竦んでくる。蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなってしまう。


 何かの暗示だったのだろうか。今になってもう一度考えてみても、やっぱり訳が分からない。


 自分たちはワクチン接種をして死んだだけの人間だった。自分たちの楽しかった旅はここで終わり。


「もっと生きたかったなんてのは傲慢だ。だから、ここで潔く、命を終えよう」


 灰田は一片の後悔もなく、ファイザの刃で貫かれた。



 ミュウカは俺たちに向かって容赦なく攻撃を仕掛けてきた。怒りに狂い、我を忘れ、本能のままに情動のままにその能力ちからを行使した。


 だが……


「どうしてッ! どうしてなのよッ!!」


 怒りを原動力にした末に辿り着くのは、破滅だ。


「もう……これ以上やっても……無駄だ……」


 ファイザが冷たく言った。地に這いつくばるミュウカは悔しそうに瞳に涙を溜める。


「パイータが……パイータは……」


 言葉にならない。言葉を紡ごうとするも、途中で溶けて、消えていく……


「ファイザさん……その剣は……」


「どうやらこの剣は効果覿面こうかてきめんらしい……」


 ファイザの持つ何の変哲もなさそうな剣がミュウカとパイータを両断した。


「俺だけだったら絶対に死んでた……」


「いや、戦いはこれからだ……オミクロンの素性が全く分からない……」


 ファイザの言う通り、オミクロンの狙いは全く分かっていないことが問題だった。


 その時……


――絶対感染パンドラ・ミーム


 雷鳴がとどろくような轟音と共に、空が暗くなる。


「うぅ……あぁ……」


 【ワーク・ティン・セシュ・カイジョー】にいた人たちはうつろな目をして、こちらににじり寄ってきた。


「これは……一体……」

 

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