第38接種「絶対感染」
灰田には分かっていた。ここでミュウカと自分が果てることが。なんとなく分かってしまっていた。ここで彼女を庇ったところで、未来は変わらない。自分たちはここまでの人生なのだ。
そのことが漫然と朧げに理解できていた。
「ミュウカ……やっぱ、パイータたちはここまでだわ……」
ファイザの握っていた剣、その剣を見ていると足が竦んでくる。蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなってしまう。
何かの暗示だったのだろうか。今になってもう一度考えてみても、やっぱり訳が分からない。
自分たちはワクチン接種をして死んだだけの人間だった。自分たちの楽しかった旅はここで終わり。
「もっと生きたかったなんてのは傲慢だ。だから、ここで潔く、命を終えよう」
灰田は一片の後悔もなく、ファイザの刃で貫かれた。
※
ミュウカは俺たちに向かって容赦なく攻撃を仕掛けてきた。怒りに狂い、我を忘れ、本能のままに情動のままにその
だが……
「どうしてッ! どうしてなのよッ!!」
怒りを原動力にした末に辿り着くのは、破滅だ。
「もう……これ以上やっても……無駄だ……」
ファイザが冷たく言った。地に這いつくばるミュウカは悔しそうに瞳に涙を溜める。
「パイータが……パイータは……」
言葉にならない。言葉を紡ごうとするも、途中で溶けて、消えていく……
「ファイザさん……その剣は……」
「どうやらこの剣は
ファイザの持つ何の変哲もなさそうな剣がミュウカとパイータを両断した。
「俺だけだったら絶対に死んでた……」
「いや、戦いはこれからだ……オミクロンの素性が全く分からない……」
ファイザの言う通り、オミクロンの狙いは全く分かっていないことが問題だった。
その時……
――
雷鳴がとどろくような轟音と共に、空が暗くなる。
「うぅ……あぁ……」
【ワーク・ティン・セシュ・カイジョー】にいた人たちはうつろな目をして、こちらににじり寄ってきた。
「これは……一体……」
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