第39接種「タイトル無題」
コロナウイルス感染者は依然として爆発的に増えている。ワクチンの3回目接種がすすんでいるが、その3回目接種もまるで追い付いていない現状。一度は収束するかに思われたこのウイルスの蔓延だったが、収まるにはまだしばらく時間がかかりそうだ。
2回目の接種で命を落とした破鬱はもちろん、3回目接種のことも、オミクロン株なんてのも知らない。だからこそ、破鬱は自分の持てる手札で、持てる最大限の力で戦っていくしかなかった……
「ちょっと、ちょっと……これ、なんか不穏な雰囲気なんですけど! ぎぃには分かる、これやばいやつ!」
「ハウツさん……村の人たちには罪がありませんが、僕たちは魔王軍ですからね」
タルーデは魔王軍だから人々を殺しても仕方がない。そんな真意を俺に聞かせようとしていた。
「ここで村の人たちを倒したって、倒さなくたって何も変わらない」
そう、オミクロンと呼ばれる何者かを妥当しない限り、俺たちの戦いは終わらないのだ。
「ファイザさん、俺たちが必ずそのオミクロンってやつを倒してみせます……」
――だから……
「何!?!?」
俺はファイザもろともこの【ワーク・ティン・セシュ・カイジョー】の人たちの意識を奪った。身体能力強化があれば、その程度は容易いことだ。
「ってことで、これで、よしっと……」
この後することは一つ!
――【6G《シックスセンス》電波受信】
瞬時にオミクロンの位置を特定する。そうだ、最初から、俺はこうすればよかったんだ。そうしてそれに気が付かなかったんだ。
「ここか!」
――【状態異常無効】
毒沼なんて意味がないし、通用しない。
――【自動回復付与】
針の筵だってものともしない、無意味だ。
――【魔法無詠唱状態】
「なんだ、こんな男、最初から俺の手にかかれば……」
俺は目の前の臣黒雨を思い切り殴る。何の疑問も持つことなく、迷いも、躊躇いも、捨てきって。
「そうだ、そう。勝ったと思った瞬間、その瞬間に負けを理解することがどれほど愚かで虚しいものか。体感すべきだ」
――
「すでにお前は俺の配下だった。破鬱無大」
――それが甘ちゃんな坊やというものだ。己を呪うことすらもできずに、死ね。
そう、俺は、また、考えなしに突き進んでしまった。
『よく考えて生きていれば、こんな結果にはならなかっただろう。だけど、考えるなんてのは面倒だ。受動的に生きていた方が楽に決まっている。難しいことを考えると悩みが生まれる。悩みが生まれると苦しみ藻掻く。そんな人生、誰だって嫌だろ』
俺はまた、繰り返す。己の過ちを。
だが、俺は、そんなことに気が付くことすらも、できないで……
――バチン!
脳内で何かが弾け、意識が失われる。自由が、尊厳が、意識が、意思が、自我が、誇りが、命が、灯が、鼓動が……
――喪失した。
そうだな、この物語は無題だ。題のない、無意味で、台無しな物語だった。
だから、そうだ、これからは、ここからは、この臣黒雨が語り継いでやるとするか。
感謝しろよ。弱き俗人よ。
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