Never leave that till tomorrow which you can do today.

第16接種「今日できることを明日に延ばすな」

 Never leave that till tomorrow which you can do today.


 今日できることを明日に延ばすな。



「いや、どうしてこうなるんだ……」


 俺たちが来ているのはカナロル海に来ていた。


「海だーーー!!」


 水着のデルナモは勢いよく叫んだ。豊満なバスト、長身でスタイルの良い身体は周りの人間を魅了する。


 チオ、一体これはどんな意味があるんだ……


「ま、私たちもたまには休息が必要ってことよ」


 なるほど……ってなるほどじゃねえ! 幹部を倒したとはいえ、今のうちに魔王城へ乗り込むのが最善の策に思えた。


「ムダイ様〜まあちゃんの水着、どうですか〜悩殺されちゃいますか〜?」


 マラナもすっかり海を満喫モードでオイルを塗りたくった体がギラギラと黒光りしている。


「まあ、これはこれでアリか……」


 チオの言う通り、休息もアリな気がしてきた。よくよく考えてみると、この世界に来てずっと戦ってばかりだった気がする…


「海! サイコーー!!」


 そう、俺の人生、こうして何も考えずに水遊びに興じるのも悪くない。


 浮き輪でぷかぷかと浮かびながらそう思う。もうこれは、老後生活みたいなものだ。社会の歯車から解放された余生だ。好きなことを好きなようにやればいい。


「お! アセトアミじゃん!」


 砂浜からにょきっと顔をだしたチンアナゴのような生物を、デルナモはバシンと刀の鞘で叩いた。


「おーい! みんなで、何匹獲れるかやろうぜ! んで、後で焼いて食べる!」


 こんな生き物がおいしそうには見えなかったが、仕方ない。俺の実力をみせつけてやろう!


「くそっ! このっ!」


 案外このアセトアミと呼ばれる生き物はすばしっこい。先読みをしない限り、動きを捉えるのは難しい。


「よし……こうなったら……」


――【6Gシックスセンス電波受信】


「さすがムダイ、きたない」


 チオが感心しているのかディスっているのか分からないコメントを残した。


「んで……からの~!」


――【引力操作】


 まさに、一網打尽いちもうだじんだった。辺りにいた全てのアセトアミが一斉に俺の方に集まってくる。ぬるぬるとしたウナギの様な皮膚が俺の全身にまとわりつく。


「ちょっと、誰か……助けて……」


「自業自得だボウズ! バーカ、バーカ」


 デルナモは、小学生の様な罵倒をしてきた。そこで、唐突に色っぽい声が聞こえる。


「やっ……そこはッ……」


 チオの体にアセトアミがまとわりついているらしい。らしいというのは、俺の視界はこのウナギのようなチンアナゴの様な謎の生物によって阻まれているからだ。


「ほら……ムダイッ……助けて……」


 いや、これは早くチオを助けないと。そして、チオがぬるぬるのアセトアミにやられている姿をその様を一目でも……げふんげふん、いやこれは邪な考えだ。


「ちょ……お前……やめっ……」


 どうやらデルナモもこの生物の餌食になったらしい。しおらしい声がいつもと違って可愛らしく感じる。


「あぁ……ムダイ様……早く……助けて♡」


 マラナは通常運転だ。むしろ、わざとこの状況を作り出している説さえある。


「ちょっと待て、こんな雑魚モンスターたちに俺たち『わくわくムゲンダイパーティ』は敗北するのか……そんなのは嫌だぞ……」


 しかし、どうやらこの生き物は魔力を餌としているようで、俺たちの魔力を吸い取ってどんどんと巨大化している。


「おいおい、シャレにならないんじゃないか……」


 俺たちの魔力は膨大だ。よってこの膨大な魔力を吸収したアセトアミたちは強力な魔物へと変貌する。先ほどまでのからっと晴れた青空はなくなり、たちまち大荒れの海が俺たちの目の前に広がった。


「おいおい、嘘だろ……」


 タコやイカの怪物がクラーケンと呼ばれるように、先ほどまでの可愛らしいチンアナゴもどきたちは集合し、一つの巨大な怪物へと変わってしまっていた!


「いやッ……」


 マラナの足が大きな触手に攫われる。宙づりになったマラナは必死に助けを求める。


「ムダイ様~助けてくださ~い!!」


 どうやら本当に自力で抜け出すことができないらしい。


「悪い……あーしも力が……」


 デルナモも腰のあたりをぐるりと触手がまとわりついてそのまま海の方へと引きずり込まれる。肌に食い込んだ触手が一際俺のエロティシズムを刺激してきたが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「でも……最高です!」


 一応、感想を小声で伝えておく。


「さあ、ムダイ、私と協力してあいつを倒すわよ……」


 幼女と少年が残された。ただの子どもたちと侮るなかれ。俺たちは元魔王と万能転移者だ。だから、俺たち二人なら、なんだって、やれ……


「るううううううううう!」


 チオが俺を掴み、ブンッと思い切りアセトアミの方へと投げつけた!


「いややややややや!!!!!」


 一瞬の出来事にリアクションする暇もなかった。


「ムダイ! 今よ! 自分にファイアをかけなさい!」


 判断力を失った俺は、黙ってチオの言う通り、自分にファイアの魔法をかけた。そう、俺は何だって受ける、依頼であれワクチンであれ、魔法であれ!


「熱い熱い熱いあつううううううううううい!!」


 体が燃えているのだから当然だ。全身火傷状態のはずが、【状態異常無効】のおかげ(せい)で死なずに生きている。おまけに【自動回復付与】も備わっているので焼けたって回復する。


「ふっ……これぞ、ムダイミサイル」


 チオが浜辺で決め台詞を言った。いや、チオさん、もっといい方法あったよね……


 そんなことを考えながら俺は目の前の海の怪物をイカ焼きかタコ焼きか、そんな感じで良い感じに焼き上げた。


「いえーーーい! アセトアミパーティーだーーー!!」


 焼いたアセトアミはもちろんスタッフ(俺たち)がおいしくいただいた。


「これ、意外とうまい!」


 ゲテモノそうな見た目なのに、上品な味がした。食レポは苦手なので一言で伝える、めっちゃうまい。


 こうやって、第二の人生、ずっと楽しく謳歌出来たらいいのに。そんなことを考えながら俺はみんなと笑っていた。

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