You will live a dull and boring life if you do not take risks.

第26接種「リスクを取らなければ、味気なく、つまらない人生を送ることになる」


You will live a dull and boring life if you do not take risks.


リスクを取らなければ、味気なく、つまらない人生を送ることになる。



「きゃああああ!」

「ああっ! 助けて!」

「うわああああああ!」


 人が次々と闇に消える姿が散見される。未曽有の非常事態、致死率の高いウイルスが蔓延するのと同じぐらいの危機的状況。現世ならあっという間に非常事態宣言が発令されるようなのっぴきならない段階ステージだ。


 そんな阿鼻叫喚の地獄絵図の中だが、俺たちの置かれた状況の整理をしよう。俺たちは、何者かによって過去の世界に飛ばされ、過去の大惨事に巻き込まれるように仕組まれていた!


 こちらの戦力となる人材は俺を含め四名。

 元魔王のギルレア、能力は万物創造。

 ギルレアが創り出した魔物タルーデ、能力は存在抹消。

 陰惨魔術師ルフア・マーガン、能力はなし。

 異世界転移者の俺、能力は【状態異常無効】etc……。


 この手札で、この人員で、この目の前の惨劇を乗りこえなければならない。いたるところで人々が闇に呑まれている。人々を救っている暇はない、乱雑に命が容易く奪われる。

 明日は我が身などではない、一秒先がわが身の可能性だってある。


 運の良い奴だって消えるのは時間の問題だろう。この生き物のようにバクバクと人を喰う闇。何者かによる襲撃、人っ子一人残さないという信念さえ感じる。


「いや、待て……これって……」


 俺はこの逼迫した窮地の最中、想起する。この光さえも吸い込まれるような黒の球体、俺はそれを以前見たことがあった。


――不規則に不特定に現れる闇。


――俺たちはその闇の正体を知っていた。


――チィ・ウォナンジュの闇魔法。


――魔王、食屍鬼エンドによる攻撃だ!


「チオが、どこかにいる!」


 魔王領フクハノウが誕生する契機となった、侵略行為。それがいま行われている襲撃なのだ!


「ぎぃ、この攻撃をしているやつに心当たりがある……」


 ギルレアもどうやら気が付いているようだった。だが眉間に深い皺を作りながら、苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべている。


「ぎぃ、もう一回、食屍鬼を倒す力は……」


「あるわけないでしょ! ぎぃだってあいつはギリギリ封印できたんだから! なに言ってんの!」


 逆ギレされた。全盛期のギルレアならまだしも、今のギルレアにそこまでの力はなかったようだ。


「ワたし、こんなところでみじめに死ぬのなんて嫌よ。ねぇなんとかしなさいよ」


「ボクの存在抹消と同系統の力だったから、どうにか緩衝できないかやってみましたが、全く効果がありませんでした。いやはやもうお手上げ状態です」


 人任せのルフア、できることはやって諦めモードのタルーデ。どうやらこの二人にもこれといった策はないようだった。


 俺はチオと戦った時のことを思い出す。


「あの時は、無理やりチオをカコの中に無理矢理押し込んでなんとかなったんだっけ……」


 今は霊体のチオ、肉体のカコが一つになったいわば完全体の魔王である。勝ち目があるはずがなかった。


「まずは元凶のチオを見つけないと……」


 対面で四対一でも勝てる見込みは少ない。だが、こうして闇に呑まれるのを待つよりはマシだった。


「とりあえず、ターベの丘に逃げるって手はありそうだけど……」


 ルフアが撤退の方向を示す。一時的に退避することは可能だ。この土地から離れることさえできれば、この闇魔法の攻撃からは逃れられるだろう。


 だが……


「魔王がそんな易々と俺たちを逃がしてくれるとは思えないんだよな……」


 俺の脳内にはただ一つの選択肢しかなかった。


「魔王である食屍鬼エンドを封印するしかない!」


「ハウツ! 何言ってるか分かってるの? ぎぃたち四人じゃあの魔王にはかないっこないってば!」


「そう、四人ならかなわない……だが、五人なら?」


 俺の予想が正しければ、俺の願望が叶うのなら、俺の知っている人間がもう一人この場に存在している。


―― 完全なる不可視人間トランスパレント、不可視のマラナが!


――【6Gシックスセンス電波受信】


 俺はマラナの気配を必死に探る。チオが前に言っていた。マラナはチオが魔王だった時代から四天王として魔王幹部の役割を担っていた、と。


「見つけた!」


 空間と空間の狭間、虚無の闇の中、再び俺はマラナを見つけ出す。俺は即座にその首根っこを掴んで言った。


「四天王幹部、マラナだな。今から俺たちの作戦に付き合ってもらう! 拒否権はない! 分かったな!」


 白髪の少女はきょとんとした表情でただ頷くばかりだ。不可視のマラナは視認される体験をしていないのだから当然の反応だ。


「まあちゃんのこと……見えてるなんて……」


「やっと出会えた……まあちゃんの王子様プリンス……」


 これ以後の恋に落ちたフォーリンラブ経緯は割愛するが、大人しくこの時代のマラナも俺の言うことを聞いてくれた。


「今から、魔王封印作戦の概要を説明する! チャンスは一度きりなので、心して聞くように!」


 指揮官さながらの様相で小会議ブリーフィングを行う俺。闇魔法の威力は弱まっている。反撃の狼煙を上げるなら、今しかなかった。


「はぁ? そんなので封印出来たら苦労しないってーの! ぎぃがどれだけ苦労したと思ってんの?」


「ワたしは良いと思うけどなあ、実際魔王を封印するしかワたしたちに希望はないんだし」


「そう、これもまた、人生。僕は自分の役割を全うさせてもらいます」


「ムダイ様の言うことなら、まあちゃんは何だって聞きます!」


 各々言いたいことは様々だったが、やるしかない。


――作戦開始ミッション・スタートだ!



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