第41接種「アジデルアドベンチャー」

「俺は今、冒険をしている。それもとびっきりぶっ飛んだ冒険だ!」


 庵治原あじはらという少年は輝いた眼で言った。


「あーしはもう燃え尽きてるんだ。あーしには希望が……」


 ネガティブな言葉と言うものはどうも一度放つと次から次へと生まれるようだ。一旦弱気になってしまえば、自分の意志とは関係なく放たれて口をついて出てくる。

 ここまで自分は弱ってはいないはずだったのに。

 あーしは誰かに聞いてほしかったのだろうか。支えて欲しかったのだろうか。


「俺はお姉さんの心に宿る炎を見たんだ! 俺は俺の直感を信じる!」


 随分と愚直な熱血漢だ。あの意味不明な破鬱などという男とは大違いだ。


「あーしは、今、てめぇの力にはなれねーぞ」


 そう、獄刀のないあーしは、ただの鍛冶屋だ。獄炎王なんて大層な称号は似合わない。


「そっか、じゃあまた力を取り戻したら仲間になってくれ!」


 足早に立ち去ろうとする少年。まったく未練を感じない。なんという潔さだ。


「おおおおおおおおおい! ここはさあ! 引き下がらない展開でしょうが! お姉さん説得するタイムでしょうが!」


 こんなにあっさり捨てられると思わず、かれぴっぴ(古い)に必死にすがるオンナになってしまった。

 いや、かれぴっぴって何だよ……


「いや、そういう女のめんどくさいの嫌だからさ。俺。読者もさ、そんなの望んでないんだわ」


 いきなり読者の話とかすんな。いやまあ、あーしもこういうたちじゃなかった。猛省するよ。そう、姉御肌、どいつもこいつもあーしについてこいのスタンスだったんだ。しばらく物語上で放置されてたからさ。キャラがぶれちまってたぜ……


「庵治原って言ったな。前言撤回だ! あーしとてめえで! 天下とるぞ! ゴラァ!」


「いよッ! それでこそ、お姉さんっス! 俺も後輩キャラにでも何にでもなるっス! 途中でパーティ離脱して裏切るポジションにでもなるっス!」


「いや、そんなキャラにはならんでくれ」


 まったく、先が思いやられるというものだ。


「ということで、アジハラ&デルナモで、味出るコンビってことで。いやあ異世界に来たからには、悪い領主とか貴族とかとっちめて、ロボットに乗って、魔王を倒して、マヨネーズ作って無双したいなあ!」


 偏見が過ぎる。というか、やっぱりコイツ、破鬱と同じタイプの少年なのか。


「デル姉、さっさとこんな辛気臭いところから出て、華やかな王都とかそういうとこ行こう!」


「デル……姉!?!?」


 こうして摩訶不思議で奇想天外なアジデルアドベンチャーは始まったのであった。

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