第3接種「クァ・コゥターヴル」
その後の展開は紆余曲折あって、なんとか俺は魔王ルートに進むことは回避できたのだった。なにやら街の中でも一番大きな屋敷へ案内されて、俺は事情聴取的なものを受けていた。
「なるほど、
――申し遅れました、私はファイザと言います。一応この街の町長を務めています。
いかにも長老といった風貌のファイザという男。
「いきなり、あんなことしちゃってすみませんでした」
自分でも信じられない。まさか【魔法無詠唱状態】ってのがあれほどの力があるなんて。魔法なんて迂闊に使うんじゃなかったぜ。
「にしても……
「本当です。気が付いたら俺はあの森にいて……」
「なんと……」
ファイザは
「あの森では人は生きられないはずなのです……あの森に一歩でも踏み込もうものなら……
「
どうやら
たしかに、その話が本当なら誰も近づかないはずだ。そして、森に人っ子一人いなかったことに説明がつく。
そして、俺がその
――俺が、【状態異常無効】だから、か……
「非常に、言いにくいのですが……」
ある程度の話を聞いた後、ファイザは少し間を開けて言った。他に何か気になることでもあるのだろうか……
「チィ・ウォナンジュという言葉なのですが……」
隣で黙々とパンを頬張るチオ。余程お腹がすいていたらしく、俺がファイザと話をしている間はいつものあの「チィ・ウォ」という呪文のような言葉を口にしていなかった。
「チィ・ウォナンジュって一体どんな意味の言葉なんですか……?」
この幼女チオがただ者でないことはなんとなく分かっていた。
「チィ・ウォナンジュとは……
チオは伝説上の生き物ってところなのだろうか。しかも、
「
「『クァ・コゥターヴル』がどこかにいるってことになる」
俺はファイザの言葉の続きを先走って口にする。
「そうです。そして、この
おいおい、それってこれから災いが起こるってことじゃ……
――ドガガガガガガ!!!!!!
「ほら、みたことか……」
完璧なタイミングで災いってやつがやってきた。一体どんなものなのか、お手並み拝見といこうじゃないか。
「何事だ!」
急いで外に出て状況確認を試みようとしたファイザ。俺も一緒になって外に出ると……
「いやいや……序盤に出て来て良いモンスターじゃないだろ……」
どこからどう見ても翼竜、つまるところのドラゴンだった。
「ゴアアアアアアアアア!!!」
けたたましい雄叫びを上げる翼竜。チュートリアルをすましていない勇者が戦う相手じゃない。
「まあ、俺勇者じゃないけどさ」
俺の中には二つの選択肢が浮かんだ。一つは再び【魔法無詠唱状態】ってのを使って強そうな呪文を使って倒すこと。
だが、それはリスクが付きまとう。俺が無事だったとしてこの街が無事だとは限らない。ファイアと唱えるだけであの威力だったのだ。翼竜討伐のために気合を入れちゃったらどうなるか、想像もつかない。
――だから、却下だ。
「じゃあ、もう一つを試すしかないよな!」
――【身体能力強化】
「いけええええええええ!」
俺の跳躍力はヒトの限界を軽く超え、あっという間に上空にいる翼竜まで辿り着いた。翼竜はその突然のヒト種の接近に一瞬怯んだように見えたが、大きな牙を剥き出しにして威嚇してきた。
「ガアアアゴオオオオオ!!」
翼竜の口内から湧き出た
――だが、俺には効かない。
――【自動回復付与】
攻撃を食らった瞬間に回復行為が体内で行われているようで、全く痛みを感じない。炎を全身に浴びている感覚はあるのに、それが空想のものであるかの如く、俺には無力だ。ワクチン打ってこれだけの力を手に入れたら気分爽快ってもんだ。
俺は、翼竜に飄々と言ってやった。
「ふん、効かんな」
拳を強く握り、力を集中させる。一撃で決めてみせる。俺にはそれだけの力がある。翼竜なんて、ワンパン余裕ってやつだ。
「歯ァ……食いしばれよォ!!!!」
竜なのだから牙と言った方が良かったか。そんなことを考えながら翼竜を全力パワーでぶん殴った。
竜はその瞬間に、体勢を崩し地に堕ちた。凄まじい音が街中に響き渡り、戦いが終わったことが示された。
「いや、にしても、俺、強すぎ……」
自分の力が過剰すぎる。翼竜をワンパンできる勇者なんているのだろうか。これから始まる
「破鬱さん……本当にありがとうございます……」
これで、俺が危害を加えないということが証明できた。一件落着だ。そう思っていると、ファイザが一言つけ加えてきた。
「助けてもらって恐縮なのですが……元凶である、
まあ、そうなるよな。
「よし……」
俺は依頼であれ仕事であれ、ワクチン接種であれ、何でも受けるんだ。だから、俺は、いつものように、考えなしに言った。二つ返事、お安い御用さ。
「その依頼、請け負った!」
破鬱はこの先にどんな結末が待っているのか知る由もない。
破鬱が軽々しくこの選択をしたことを、後悔するのはまだ先の話である。
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