第14接種「ここで死んでもらうッスね!」
「あれぇ~裏切り者のマラナパイセンじゃないッスか~魔王様から、さっさと処分せよとのお達しがでてるんスよね~」
「おっと、うちはベイメル。マラナパイセンが抜けた後、四天王入りさせてもらった新入りッス~」
ベイメルと名乗る少女がマラナの前に現れた。青髪のツインテールを靡かせながら、右に左に落ち着きのない様子だ。
「ああ、もう私……四天王脱退処理されてたんだ……」
見切りをつけるのが随分早い。まるで最初から私が寝返ることが分かっていたかのようだ。
「パイセンには悪いけど、ここで死んでもらうッスね!」
ベイメルは快活に言った。この少女、私の能力を知らない? 知っていれば少しは臆するはずなのだが……
「あ、今、うちがどうしてビビらないのかって思いましたね? そういうのうち、分かっちゃうんスよね~」
――ビビんないスよ。姿が消せる程度で。
ベイメルは声のトーンを落として言った。肝が据わっている。へらへらしているようでいて、敏いところがありそう、つまるところの曲者ってやつだ。
「私も新入りさんに殺されるつもりはないので……」
姿をくらます。いつもと同じように、足音も気配も臭いも何もかも消す。存在ごとまるっとなかったことにする。自分だけの空間と空間の狭間に入り込む。これで、誰も私を見つけることができない。
相手の認識の外へ逃げ込み、落ち着いて、刃を突き立てる。
息を殺す必要はない、殺すのは相手だけ。
「はぁ~ん。これが
――たしかに、これは、なーーーーーんにも見えないッス!
幽霊にせよ、人は見えざるもの、人知を超えたものに出会うと恐怖するものだ。だが、このベイメルからは恐怖が一切感じられない。
「さ、どこからでもうちを刺してください! ほら、マラナパイセン!」
あえて無防備なことをアピールしている。完全なる誘い、罠だ。攻撃して初めて効果を発揮する能力でも持ち合わせているのだろうか。
迂闊に攻撃するべきではない、心がそう訴えかける。
「あれ、こないんスか? ビビっちゃったスか? うちの能力に?」
――はは、パイセンのざぁ~こ♡ ざこざこパイセン♡
恍惚な笑みを浮かべてベイメルは言った。こんな安い挑発に乗ってやる義理はない。きっと向こうもこちら側に攻撃することはできないはず……
「だッ!?!?!」
「お、今、うちの攻撃が当たったっすか? 気のせいすかねえ。おかしいスねえ~感覚はあったようなないような~」
ベイメルは口を動かす以外に何もしていない。なのに、拳で殴打されたような痛みを感じた。一体、どういうカラクリなのだろうか。
「パイセ~ン、そろそろうち、ヒマなんスけど~もうヒマすぎて無理ッス~」
ベイメルは堪え性がなかった。ものの五分で音を上げた。だが、これも全て作戦の内なのかもしれない。そんな考えが頭を離れなかった。仮にも
――でも、今、やるしかない!
「がッ! はゥ! ぎだッズね゛……」
ここで勝負を決めに行った理由はいくつかある。まず、ベイメルの側が一つは何かの能力でこちらに攻撃を仕掛けにきていたから。
二つ、膠着状態が継続することはこちらに利がなかったから。
そして、なにより……
「その口調、鬱陶しいんですよ……」
ベイメルの心臓を一刺し。やってみると存外、呆気のないものだった。今までの敵のように一撃必殺だ。力強く鼓動している生命の源を断つ、その感覚、何度やっても慣れないものだ。
「はい、残念でしたぁ~♡ やっぱパイセンはざぁ~こ♡」
「幻影……!?!?」
たしかに刺した感覚があった。にもかかわらず、ベイメルの体は雲散霧消し、辺りは白い霧に包まれた。
「毒……!?!? これがベイメルの能力……!?」
煙が充満し、辺りは真っ白になった。
「
やはり、ただでは殺させてはくれないようだ。相手もそれなりの力がある。ここをどう切り抜けるか、正念場ってやつだ。
「んじゃ、降参……」
両手を上げて、霧の中降伏宣言をする。さあ、ベイメル……どう出てく……
「る!?!?」
「やられたらやり返すが基本スよね!」
迷いなく、奴も心臓を狙ってきた。これはどちらかが死ぬまで続く、
「あれ、スかったスか」
相手が幻影でくるならば、こちらも幻影を行使するまでだ。透過はそのままに囮としての幻影を準備する。そのくらいは造作もない。
「影と影、幻と幻の化かし合いってやつッスね! 燃えるッス!」
そう、この戦いは出し抜いた方が勝つ。そんな戦いだ。
「私は……ムダイと約束したんだから……」
「こんなのさっさと倒して、ムダイと結婚するんだから!」
マラナとベイメル、無大と空気喰人、
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