No pain, no palm; no thorns, no throne

第21接種「苦痛なくして勝利なし。いばらなくして王座なし。」

 No pain, no palm; no thorns, no throne


 苦痛なくして勝利なし。いばらなくして王座なし。



「ぎぃのものだって言ってんの! ハウツは適当にあるその辺のやつ!」


「ここの領地は俺が任されたんだ! 俺が相応しい!」


 傍から見れば、ただの少年・少女の言い争いに見えるだろうが、これは最重要案件だ。なぜなら……


――王様のイスは一つしかない!


 俺たちは椅子取りゲームに興じていた! 椅子はただの椅子ではない! 王座である!


 だが、この椅子取りゲームはすぐに幕を閉じることになった。


「あ……」


「ほら、ハウツが譲らないから……」


 熱が入りすぎるあまり、勢いよくお互いが椅子にぶつかった。その影響であっという間に、フクハノウの王座は粉々に壊れてしまった。


「よし……お互い落ち着こう……」


 このフクハノウには俺たち二人しか存在していない。元は四天王、無屍人ナジトの支配領域だったらしい。無屍人が埋葬人アンデッドの軍勢を率いていたせいで、主を失った埋葬人たちは全て腐ってしまった。


「それを俺が一人残らず火葬してしまったわけだ……」


「しまったわけだ、じゃねーっての! あそこで燃やさなかったらもしかしたら戦力としてカウントできたかもしれないのに! ほんとハウツのバカ! バーカバーカ!」


 ギルレアはそう言って俺に不平を漏らす。いや、だってさ、仕方なかったじゃん。ああしなきゃふたりとも今頃勇者の経験値に還元されていたぞ。


「当面は、この魔王領に優秀な魔族を集めることが目標だな……」


「どこからヘッドハンティングすりゃいいってーのよ! そんなホイホイ強い魔族なんていないわよ!」


 ギルレアの言う通り、そう都合良く強力な魔物が出てくるはずがなかった。


「そうだな……この近辺で近づくなと言われてるような場所でもあれば……」


――そこに魔物がいる。


「ちょっと探してみるか……」


「ぎぃも! ぎぃも行く!」


 まずは、その辺の洞窟でも見てみるか。俺は、魔王領にある洞窟を見てみることにした。正直、期待はしていなかった。さすがにそんな簡単に見つかるはずがないと分かっていたからだ。魔物の足跡だとか、食事の跡だとか手掛かりになる何かが発見できれば御の字だった。


 だけど、それは、信じられない程容易く、俺たちの目の前に現れた。


「ん? なんか用か?」


 ここ、俺の家ですけど何か? みたいな雰囲気でこちらを見つめる魔物。岩をおいしそうにバクバクと頬張っている。いや、なんだこの生き物……


「カメパンダ!」


 ギルレアが魔物の方を指差して言った。たしかに背中には甲羅、黒と白の体毛、人語を理解できる魔物とはいえカメパンダと表現するのが一番的を射ている気がする。


「誰がカメパンダだ! 俺はダラムだ! このフクハノウを長きに守ってきた守り神ダラム! そんなことも知らないのか? この新参が!」


 そんなことも知らないのかと言われても、そんな情報ヴーカンから聞いてなかったし。というか、守り神ならあの勇者の軍勢から守ってくれよ。使えない守り神だな。


「ダラム、俺はこのフクハノウを任された、破鬱無大だ。いきなりですまないが、頼みがある……」


「頼みぃ!? 主従関係結びたいならよぉ……」


――俺を力で屈服させてみろよぉ!


 さすが魔物、喧嘩っ早いというか、血の気が多いというか……


「ギルレア、殺さない程度に本気でや……」


――れ?


「手加減なんてしてる暇ねぇからよぉ!」


 カメパンダことダラムは思い切り俺の後頭部を殴打する。


 俺はラムダの俊敏な動きに対応できなかった。


 まったく、なんて馬力だこの魔物。伊達にこの土地の守り神を名乗ってはいなさそうだ。


「ぎぃ怒ったから! 絶対殺す!」


 ギルレアもすっかり怒り心頭のようで、おもむろに虚無の空間から刃を生み出した。


「なんでも斬っちゃうサイキョーブレード! カメパンダ、死ね!」


 残虐非道な元魔王は容赦という言葉を知らない。気に食わない奴はこうやって殺してきたんだろうなと一目見て分かった。


 ギルレアは万物創世の能力で生成した剣を思い切りダラムに振り下ろす。


「おいおい……やりすぎだろ……」


 真っ二つに魔物を分断してしまった。これから仲間にする予定だったのに。せっかくの貴重な戦力だったのに……


「ま、こんなぐらいで死ぬなら雑魚ってことでしょ! ぎぃはそんな雑魚と一緒にいたくないもん!」


 たしかにギルレアの言うことも一理あった。この程度で死んでしまうなら仲間にしたところで大した戦力に数えることはできない。


――だが、魔王領の守り神の名を冠するだけのことはあった。


「よし……お前たちの言うことを聞いてやろうじゃねぇか。一体何が望みなんだ……」


 復活している!? 真っ二つに切られたのに?


「カメパンダ、マジきも……」


 ギルレアは眉をひそめ、露骨に嫌悪感を顔に出した。このダラムという魔物は、不死の魔物なのだろうか。


「はあぁ! きもって何だよぉ! 偉そうなこと言ってよぉ!」


 また、戦闘が再開されるかのように思われたが、ダラムは俺の方を見遣って言った。


「真面目な話があるんだろ。ハウツ」


 先ほどはこちらの力を試す行動だったらしい。力が認められた今、対等に話をする気になったようだった。


「ああ、単刀直入に言うが、俺たちのところまで来て欲しい」


――断る。


「仲間に……」


――断る。


 はっきりと断られた。ここまできっぱりと言われるとこれ以上交渉の余地がないように思われた。


「どうして……」


「俺はここから離れるわけにはいかないんだ……」」


 何かわけがあるという風のダラム。一体この場所に何があると言うのだろう。


「ハウツ! こんなカメパンダ、別に仲間にしなくていーじゃん! さっさと次探そ!」


 俺には脳内に二つの選択肢が浮かんでいる。


 ここで粘って、ダラムを仲間に引き入れるか。


 それとも、諦めてダラムを仲間に引き入れないかだ。


 俺が選んだ選択は……

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