第22接種「タルーデ」

「んじゃ、ダラム、また誘いに行くから待ってろ」


 俺の選択はこうだ。仲間に無理に引き入れることはしなかった。来るもの拒まず去るもの追わずって言葉があるように、無理に誘ってもいいことなんてない。ここで何か必要なイベントが発生する可能性だってあったが、俺はそこまでしてこのダラムという魔物を配下に収めようとは思わなかった。


「守護神は守護神らしく、またフクハノウの危機には活躍してくれ」


「承知した。その時になれば力を貸すことを約束しよう」


 こちらの話はすんなりと通った。さすが守護神と名乗るだけのことはある。


「ほらハウツ、カメパンダなんてほっといて次行こ! 次!」


 ギルレアは気持ちの切り替えが早い。そんなすぐに次の魔物がこの土地で見つかると思っているのだろうか。


――俺はそうは思わない。


 この場所を探知してみたが魔力反応はなかった。意図的に消している場合もあるので完全にゼロとは言えないが、限りなくゼロに近いことは確かだ。


 俺たちはしばらく歩き、また魔物探しを始める。こんなのただのピクニックじゃん、なんて思っていた。


 だが、ここで俺はあることに気がついた。


「ぎぃ、そういえばその万物創造の力を使って最強の魔物を作り出すってのは可能なのか?」


 仮にも万物創造というのだ、魔物だって作れるに違いない。それに、先程もなんでも切れる剣(真偽は疑わしい)なるものを簡単に生成していた。


「はぁ? ぎぃを舐めてんの? そんなのできるに決まってるでしょ! 元極獄の四天王、空気喰人クイタンだって、ぎぃが作ったんだから!」


 マジで? いや、あいつ相当強かったぞ。あれをギルレアが作ったのか……


――流石、元魔王だけのことはある。


「ま、今はヴーカンに魔力を奪われたから無理なんだけどね! 今のぎぃでもあのカメパンダぐらいの魔物なら作れるわ!」


 カメパンダぐらいの魔物のレベルが分からないが、どうやらやってみる価値はありそうだ。


「じゃあ、作ってみよう! なるべく強い魔物! 俺たちの仲間に相応しいような、強くてカッコいいやつ!」


 気分の高揚を抑えることができない俺。自分で魔物を作るってなんか凄いじゃん? キャラメイキングってテンション上がっちゃうじゃん?


「そうだな、魔王軍なんだから角がある悪魔っぽい見た目がいいよな〜! 狼とかそんなタイプもいいよな〜」


 勝手にあれやこれやと妄想を広げる俺。こういう時って大概自分の思い通りにいかないんだよな……


「はいはい、ハウツの希望は聞いてないってーの!」


 目の前でギルレアが呪文を唱えながら眷属を召喚しようとしている。無機物を生成するよりも随分と時間がかかるようだ。


「さぁ、ぎぃ特製の魔物の完成! 結構自信作なんだから!」


 家でチャーハンつくりましたみたいなノリで魔物を作っちゃうギルレア。モクモクと白い煙の中から、ギルレアが作り出したと思われる魔物の姿があった。


「さぁ! 姿を現しなさい! タルーデ!」


 どうやら名前は決めていたようだった。その呼びかけに応えるように魔物が口を開く。


「ボクを作り出してくれたことに感謝はしています。だが、ここであなた達の言う事を聞かなければいけないという決まりはありません。ここで生みの親であるあなたたちを葬って、ボクがこれから自由に生きる、という選択も、また人生ですよね」


 めちゃくちゃ偏屈そうなやつが来てしまった……

 見た目はただの中学生男子っぽいが魔力が溢れ出ているのが分かる。これを手懐けるのは難しそうだ……


「はぁ? ぎぃが作ったんだからぎぃの言う事を聞くのが当たり前でしょ! 何言ってんのよ!」


 一触即発の雰囲気を感じる。ギルレアに煽り耐性は皆無だった。


「タルーデ、能力、君の能力は何なの?」


「どうしてそれを今、あなた達に教える必要があるのでしょうか? 今からボクはあなたたち2人を殺そうとしているのですよ。能力を明かせるはずがないでしょう」


 この展開はまずすぎる。魔物を生成したせいでギルレアの魔力は少ないだろうし、能力が分からないなら俺だけの力で倒すことができるか分からない。


「ふーーーーん! そこまで言うなら、勝負してやろうじゃん! その勝負に勝ったらぎぃの言う事をこれから何でも聞いてもらうから!」


「最初から言っているじゃないですか。ボクは勝負するつもり満々ですから」


「ジャンケン、一発勝負!」


 タルーデは面食らった様な顔をする。俺もギルレアは一体何を言っているんだと一瞬驚いた。だが、彼女の判断は正しい。

 このまま魔力の少ない状態で勝負したところろで全てが無駄になるからだ。勝っても魔力を無駄に消費しただけの結果になるなら、お互いが傷つかない選択で勝敗を決める。それは賢明な判断といえる。


 問題は勝つことができるかどうかだ。ジャンケン勝負は二分の一。勝負強い方が勝つ。ただ、それだけの勝負だ。


「いいでしょう。それで勝敗を決めましょう」


 タルーデも快諾してくれた。あとは天に祈るのみ……


「いくよ!」

「いきます!」


「「じゃーんけーん」」


 じゃんけん勝負の行方は……



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