第23接種「【ショクイキ・セシュ】」
「速い……速すぎる……」
俺の目の前ではギルレアとタルーデの目まぐるしい駆け引きが行われていた。といっても、ほんのゼロコンマ数秒の出来事である。
運の勝負と言いながらも、どうやったら相手を出し抜くことができるのかを2人は必死に考えているようだった。
瞬時に手を出しては替えを繰り返す。俺も【身体能力強化】で動体視力を強化しないと目視することが難しい。しかし、彼らは俺が見ている以上に手を即座に入れ替えているようだった。
「「ポン!!!!」」
試合終了の合図ともいえる掛け声が2人の間に交わされた。
「っしゃーーー!!!!」
勝ったのはギルレア。きっちりとタルーデのチョキを任す拳を突き出していた。流石に創造主の上をいくことな不可能だったようだ。
「…………」
だが、タルーデは誠実であった。
「負けは負け。ボクは何でも言う事を聞きましょう。負けて言いなりになる、これもまた、人生」
生まれてまもないのに人生を語りたがる、達観したいお年頃なのだろうか。
「んで、結局タルーデの能力は何なんだ? これから味方として俺たちの力になってもらうにあたって知っておく必要があると思うんだが……」
ギルレアが自分の魔力を賭して創り出した魔物なのだ、きっと相当な能力を持って生まれたに違いない。そう考えていた俺だったが、タルーデの能力は俺の想像以上のものだった。
「ボクの能力ですか……ボクの能力なんて大したことないですよ……」
――存在を完全に抹消させる能力。
「ほら、大したことないでしょ?」
普通に大したことあるんだが? 存在を抹消するって何だよ。怖っ、超怖い。
「ふん、ぎぃに比べたらたしかに大したことないわね……タルーデにはこれからたくさん働いてもらうから!」
ギルレアからしたら大したことないのかもしれないが、相当な能力だと思うんだが……
「よし、ハウツ! これで三人揃ったことだし、【ショクイキ・セシュ】に攻め入るわよ!」
「攻め入る? この戦力で?」
いや、さすがに三人だけじゃ国を侵略するなんて不可能だろう。そう思えた。
「【ショクイキ・セシュ】には三人の英傑が存在する。一つ、
なんでそんな強キャラばっかいる国に攻め込むんだよ。てか、その三英雄の名前はどこか聞き覚えがある名前なんだが。
「いや、待て、ぎぃ……このフクハノウに必要なことは侵略じゃない。俺たちに今必要なのは……」
――ヒーラーだ!
とにかく話題を侵略から逸らそうとする俺、何かないかと適当に浮かんできた言葉がこれだった。
「ヒーラーって何なのよ! ハウツ!」
「ヒーラーってのは回復支援者だ。俺たちは喧嘩っ早い、そして攻撃要因だ。だが、仮に俺たちの全員が傷ついてしまったら? 一体誰が俺たちの治療を行うんだ?」
自分で言っていても理にかなっていると思う。今までの冒険ではバリバリの攻撃型のタイプの味方しかいなかった。攻撃力アップだとか、敵の能力ダウンだとかそんな魔術が使えるような仲間がいれば心強いと思った。
――だが、ギルレアのお気に召さなかったようだ。
「ケガなんて唾つけとけば治るってーの! ハウツ、ふざけてんの?」
ふざけているのはどちらだ。いつまで前時代的な医療行為を続けるつもりなのだ、この元魔王。
「ボクはハウツ様の意見に賛成です。ボクも回復は得意ではありませんし、三人が危機に陥った場合の対策としてはアリかと……」
賛同するタルーデ。どうやらまともな思考も持ち合わせてくれているようだった。
「でもっ! そんな都合良く回復が得意な仲間が見つかるわけないってーの!」
たしかに、普通ならそんな都合良くヒーラーが見つかるはずがない。だが、俺は見つけてしまったのだ。
「ぎぃが言ってた【ショクイキ・セシュ】の反対側にある……あの丘。そこから魔力の反応を感じないか……?」
「たしかに魔力は感じるけど、それがハウツの言うヒーラーだとは限らないと思うんだけど」
なんの変哲もなさそうな丘。だが、そこから一つ、魔力の波動みたいなものを感じる。
「いや、何重にも張られた結界、あれは認識阻害結界だ。本来ならあそこに魔力を持った何者かがいることすら気が付けないはずなんだ。それほど巧緻な技術を持った何かがそこにいる。その魔力の主を味方につけることができれば、俺たちは……」
「ふん! ハウツ、何もなかったら死で贖ってよね」
さらりと命を天秤にかけられてしまう俺だったが、何かがいることは間違いないのだ。行ってみる価値はあるだろう。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「は? それってどういう意味よ!」
「素敵な仲間に出会えますよというまじないですよ、ギルレア様。ですよね、ハウツ様」
俺たち三人はフクハノウを離れて、謎の丘に向かうことになった。留守番は守護神のダラムに任せておくことにしよう。
「さ、新たな仲間勧誘を始めるぞ!」
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