El pueblo unido jamás será vencido.

第11接種「連帯する人民は決して打ち倒されない」


El pueblo unido jamás será vencido

連帯する人民は決して打ち倒されない



 元魔王チオ、獄炎王デルナモ、そして不可視のマラナ、俺のパーティはいつの間にか変わった仲間が増えていた。チオもデルナモも新たな仲間マラナを二つ返事で認めてくれた。これでいざ、魔王城へ出発だ!


「いや、意気込んでいるところに水を差すようで悪いんですけど、ムダイさん魔王城行かなくてもいいですよ。魔王の配下の極獄きょくごくの四天王、まあちゃん以外三人も、この【バクスノヴァ】にいますから」


 マラナからそう聞いたのは、つい五分前のことである。あっけらかんに白髪の少女マラナは言い放った。なんでもないという風に、それがなんの役に立つのだと言わんばかりに、何気なく軽々しく言った。


「どうして魔王軍の腕利きがここに集結してる? ここで何かあるってのか?」


「正確にはあったってとこです。まあちゃんたちは殲滅隊だったわけです。勇者たちが集まって連合チームを結成してたってわけで……まあ、もう、瞬殺だったけど……」


 瞬殺……なんとも恐ろしい響きだ。現魔王軍はどうやら圧倒的な力があるようだ。


「はぁ? 残りもいるってことは、もうここで魔王幹部全滅できるじゃねーか! エンちん、ここで一網打尽ってやつだ!」


 デルナモは戦闘意欲満々で言った。瞳も腰の刀も燦然さんぜんと輝いている。やはり獄炎王、とんだ戦闘狂だ。


「マラナ、その四天王ってのは強いのか?」


 四天王というのだから当然強いだろう、だが、そう聞かずにはいられなかった。なんとなく気になって聞いてしまった。


「もちろん。全員まあちゃんより強い。まあちゃんは四天王最弱!」


 偉そうに何を言っているんだこの白髪少女。にしても、マラナが最弱クラスなら俺たちは生き残ることができるのだろうか……


「チオ、各戸撃破って方が理に適ってるよな……? ここは一時撤退的な展開もありだよな……」


 淡い期待だったが、俺にはここで魔王軍と全面衝突する展開は避けたかった。マラナ一人ならまだしも、あと三人も相手にするなんて無謀だと思ったからだ。


「ムダイ……私たちのパーティ『わくわくムゲンダイパーティ』の基本理念は……?」


「え……?」


 パーティ名も適当に今考えてつけたようなネーミングセンス、基本理念なんてあるはずが……


――「全力衝突で、思い切り砕けろ」、よ!


 いや、ダメじゃん。


「冗談はさておき、今更マラナより強い魔王幹部たちが私たちを易々と逃がしてくれるとは考えにくい……」


「そして、幹部なんてのは力を持て余しているから遊び好きなの。きっと、こちらが意図しなくても、各戸撃破の形になる……」


 たしかにチオの言う通りだ。幹部の一人がサッと倒してしまうと他の幹部たちは面白くないだろう。だからこそ、じっくり一人ずつ甚振いたぶるという方法を取ってくる可能性が高かった。


「そういや、6G受信できるんだった……」


 俺は、新しく覚醒した能力で、魔王幹部の位置を割り出した。


「見えた……」


 道は見事に4つに分岐されている。それぞれ強大な魔力反応がある。向こうもきっと俺たちの存在に気づいて待ち受けているのだろう。


「みんな……無事で帰ってこよう……」


 今回ばかりは全員が魔王幹部を打倒して帰って来れるとは思えなかった。どこか胸がざわつく感じ、嫌な予感がした。

 敵も強大で邪悪なのだ。無事で帰れる保証などどこにもない。


「なーに言ってんだよ! 戻って来るに決まってんだろ! みんな強いんだぜ!」


「ムダイさん……まあちゃんが無事に戻ってきたら結婚してください……」


「ムダイ! 今まで楽しかったわ……」


 デルナモ、マラ、チオは思い思いの言葉を俺に言って闇の中へと消える。弱気になっていては駄目だなと思い知らされる結果になった。


「よっしゃ、俺もいっちょ頑張るか!」


 そう言って皆と違う道を一歩進んだ。


――その瞬間だった。


「……え゛」


 頭が割れる痛み。痛い。

 頭蓋が破裂する痛み。痛い痛い痛い。

 頭頂部が嚙み砕かれる痛み。痛い痛い痛い痛い痛い。


 脳髄が啜られ、脳漿が破裂する。鈍器で殴打された鈍い痛み、鋭利な刃で刺された裂傷の痛み、針で刺され、釘を打たれ、鉄球を落とされた痛み。あらゆる痛みが、俺を襲った。


「あああああああああああああああああああ!!」


「あーあ、もう壊れたのか……?」


――俺はハズレを引いちまったようだな……


 空気喰人クイパス、大気中の空気を支配する力を宿した魔物。真空状態ではあらゆる穴から液体が噴き出すという。実際、空気喰人は破鬱の頭部周辺の空気を圧縮して真空を作り出した。


 これで何人もの勇者を屠ってきた。この関門を突破できないようでは空気喰人と対等に渡り合うことは到底不可能だ。空気喰人にとってこれは最初の挨拶のようなものだった。


「お!? まだ生きてるのか……!?」


 幸い俺には【自動回復付与】が備わっている。痛みは感じるものの、特殊な攻撃でなければ傷は癒え、元の状態へと回復することができる。


「これが魔物か……」


 いかにも魔王軍幹部のような容貌、人と人ならざる者が混合ミックスされた雑多者キメラ

 頭から二本の角が生えているし、手には鋭い爪が発達している。目は血走った目で真っ赤に染まっている。口には牙の様な鋭い刃が光っている。能力なしにしても普通の人間なら容易く殺めることができる肉体からだ


「どうした、俺の顔をジロジロ見てよ……魔物を見るのは初めてか……?」


「いいぜ、いいぜ。じっくり見ろよ。隅から隅まで気が済むまで見てくれ……」


――どうせ、お前は死ぬんだからな……!!


 強い語気で、魔物、空気喰人クイパスは怒鳴った。決して彼は怒っているわけではない。第一関門をクリアできた人間に久々に出会うことができて精神が高揚しているのだ。


――どうやって殺そうか、どうやって殺そうか、どうやって殺そうか。


 殺すことしか頭になかったのだ!!


 俺は魔物の尋常ならざる殺気を感じ取り、全身に悪寒が走る。


 ヒトを殺すことへの躊躇いのなさ、純粋に殺し合いを楽しむ姿勢、命を軽々しく扱う信条、全てが魔物らしく、ネジが外れた思考だ。


「俺……生きて帰って来れるかな……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る