第29接種「ミュウカとパイータ」


「スクマさん、あの二人、どうしますか……」


「どうやらこそこそと嗅ぎまわっているようですが……」


「そう急ぐ必要はない……俺たちにはこの能力ちからがある。後でじっくりと、この街に順応してもらえば良い……」


 テイアラとガイウ、そしてスクマが今後の動向を話し合う。彼らにとってこの街は、この世界は、自由自在に動く駒でしかない。


 自分たちに出来ないこと、成しえないことは存在しない。そんな万能感、全知全能感が三人から感じられる。


「俺たちの世界だ。俺たちの好きなようにすればいいさ」


 そう言って三人の英傑は笑った。何でも思い通りにやってきた、心から三人はこの世界を謳歌していた。



「ルフアさん、とりあえず、情報収集です!」


 俺はこの【ショクイキ・セシュ】で三人の素性を明らかにする必要があった。スクマ、テイアラ、ガイウの三英雄について、俺たちから魔を奪った者たちについて。


鉄帝てってい、テイアラ様、ガイウ様。二人は魔を滅することに長けています。この街を守護する偉大な勇者様です」


「スクマ様は私たちの希望、この街を何度も災厄から守ってくれた神様なのです」


「テイアラ様はこの間私たちにお恵みを下さいました。ガイウ様は……」


 街の人々は三英雄を信仰していた。幾度となく、窮地から危機から瀕況から救ってくれた救世主メシアを、神であるかのように崇めていた。


「駄目だ。これじゃ埒が明かない……」


 俺たちは三人の能力ちからや弱点を知りたかった。だが、崇拝している信者がそのようなことを知る由がなかった。


 ただ、漫然と、意思なく、そこで生き続ける。ただの人形の様な人生。ここの人間は生きながら死んでいる。


「これが幸せなのか、考えることすらもできないのか……」


 反逆する思考を奪われた人間たちが何の苦難も無く平和に過ごすことができる街、それが【ショクイキ・セシュ】。俺には異様で歪んだ街の様に思われた。


「どうする、ハウツ君? ワたしみたいに洗脳されずに生きてる人、探す?」


 ルフアはそう言って俺の方を見遣ったが、俺は首を横に振った。


「いや、やめておこう……」


 ルフアのような人間が、都合良くこの街にいるとは思えない。この街の人間はみんな勇者に逆らわないように支配プログラムされている。だから、他の方法を探さないと……


――いけない!?!?


「だーかーらー、この街はあの三人の好き放題にされてるんだって!」


「お前たちはただの豚だってーの。そんなのも分かんないの? あ、分かんないからここでブヒブヒ言いながら生きてるんだね」


 一目見てこの街の人間ではないことが分かるほど、派手な格好の二人。顔は瓜二つ、双子なのだろうか。まるで、あの元魔王のチオとカコのように無垢で邪気のたっぷりな幼女たち。


「ん? 何こっち見てんですか、この野郎」


「あ? 何か文句あるってか、糞野郎」


 二人の幼女たちは俺たちの方へと近づいてくる。目が合っただけで、この言われよう。いつの時代のヤンキーだよ。


「お前、何者なにもんです!」


「ここの街の人間じゃないよな!」


 小さな体躯から得も言われぬ凄みを感じさせる。洗練された身体フォルム、まるで、外面と内面で異なる人間が同居しているかのような、不思議な違和感。


「いや、あの、俺たちは……」


 そう伝えようとした、その瞬間、


――お前、それでも、男ですか?


――チン〇ンついてんのか、こら!


「いってえええええええええ!」


 思い切り股間を鷲掴みにされた。いや、初対面の人間にこんなことするなんて悪魔か何かしかいない。少なくとも人間の所業ではない!


「あらあら、いきなりアプローチしてくるなんて、とんだ変態さんね……」


 お姉さんエルフであるルフアはこの場を収めようと、二人を窘めようとした。


 だが……


「うっせえ、ババアは黙っとけです」


「そうだ、年増が! 大人しくターベの丘で隠居しとけ!」


「あ゛?」


 言ってはいけない一言を、彼女らは言ってしまった。二人が言ったから二言か。一流の陰惨魔術師を怒らせると、どうなるのか、二人の幼女には知ってもらう必要が、


――あった!?!?


「ぐっ……」


 平服している、あのルフアが。まるで自分の魔法を反射されたかのように、地にしている。一体これはどういうことだ。


「横入りすんな、ミュウカはお前に聞いているです」


「パイータもお前に聞いてるんだよ」


 そう言ってまた幼女は俺の股間に触れようとしてきた。だから俺はすかさず、言った。


「待て、待ってくれ。状況が全く理解できない。一体二人は何者なんだ! どうして俺に因縁ふっかけてくるんだよ! そして、どうして俺の股間を触ろうとするんだよ!」


「どうしてって? わかんねーですか?」


「感じるだろうがよ! 伝わるだろうがよ!」


――この世界じゃない、異界の臭いをよ!


 異界の臭い、一体二人は何を言っているんだ。俺が考えているうちに、二人は続けて言った。


「ミュウカは……」


「パイータは……」


――打ったんです。


――ワクチンを!


 全てを理解した。この二人も俺と同じ、異世界転移者だったのだ!

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