Make yourself necessary to somebody.
第6接種「誰かに必要とされる人間であれ」
誰かに必要とされる人間であれ
Make yourself necessary to somebody.
※
「チオ、これは一体どういうことなんだ……」
「ムダイがムテキでよかった!」
俺が幼女チオ(元魔王)に導かれるままに着た場所、それは……
――アストラ山、噴火口
「どうして
このアストラ山は活火山で、
「これ、絶対普通なら死んでる匂いだよな……」
俺はそんなことを言いながらひたすら前進した。にしても、魔物はおろか、人とも出会うことの少ない旅だ。
なんてことを考えながら歩いていると……
「ちょっ、ここを進むのか……」
目の前にはあの粘っこいマグマがあった。流石にここを通れと言うのは無理な話だろ……
「ムダイなら行ける。心配ない」
静かにサムズアップをするチオ。一体俺を何だと思っているんだ……
「って、これマジで行けるじゃん……」
【状態異常無効】であることをいいことに、俺はあろうことかドロドロの溶岩の中をゆっくりと進んでいた。俺は、自分自身の頑強さが信じられなかった。
この場合、
「チオ、そろそろこの先に何があるか、教えてくれてもいいんじゃないか」
こんな溶岩道を進んだところで何かがあるとは思えなかった。だからこそ、俺はチオに聞いた。一体この先に何があると言うのだろう。
「
チオは少し厳かな面持ちで言った。予想外の返答に俺は戸惑った。獄炎王? それは何の王なんだ、この中に国があるとは思えないし、そもそも人がいるとも思えない。
ただ、チオは神聖なものを扱うかのような、礼儀を重んじる物言いをしていた。元魔王でさえも、その獄炎王に対しては一目置いている。
きっと、ライオンの様な百獣の王的な屈強で
獄炎王に対する勝手なイメージがどんどん膨らんできたので、一旦その想像を打ち切って再度チオに問うた。
「その……チオは獄炎王に会って、どうす……」
そう言いかけたところで、地が大きく揺れ出した。ぐつぐつと鍋が煮えてくるように、大きな力が下から湧き出てくる。
――間違いなく火山活動が始まる、噴火が起こるのだ!
――ゴガゴグゴガゴグ……
濁点のたくさんついた音が耳に響く。噴射されたと思った時には既に、遅かった。
チオはあっという間に俺の前から姿を消し、俺も火山流に呑み込まれて離れ離れになってしまった!
「チオ!」
元魔王はそう簡単に死ぬことはないだろう。だが、船頭がいなければ、俺は進むべき道が分からない。右も左も、上も下も分からずに俺は溶岩の中にどっぷり浸ってしまった。
本当は熱くて仕方がないのだろうが、ねっとりした感覚が少し癖になる。湯煎されたチョコレートのようなあの粘土の高いマグマの海。俺はその中をしばらく漂流する。
「あぁ~きもちいぃ~」
――ザシシシシシシシシシシシ!
突/然/切/り/刻/ま/れ/る/感/覚/が/あ/っ/た/。
「おいおい、
――って、もう切っちまったか……
溶岩の中から突然人が現れた。あれほどあった溶岩も剣戟によって海を割るように、真っ二つに分断された。
「おいおいおいおい、ボウズかよ。寝覚めが悪くなるじゃねーか!」
口調や語気は荒っぽいが、声色は女性のそれだ。俺はそんなことを考えながら、目の前の女性に目を向けた。
すらりと長く伸びた脚に、キリッとつり上がった眉。豪奢に煌めく赤き長髪を
そして、一呼吸置いて、彼女は叫んだ。
「ひいいいいいいい!!!どうして生きてるんだよ!!!」
女性はかなり慌てた様子でただただ俺を、化け物を見るような目で見ている。相当動揺しているようで、わけが分からず右往左往するばかりだ。はわわわという効果音が今にも聞こえてきそうな程にテンパっている。
だが、それは一瞬のことで、
「いや、待て、こんなところに来てるんだから、こいつはただもんじゃない……ということは、こいつは斬っていいやつだ。そうに違いない!」
――ってことでもう一回。
――ザシシシシシ!
玉ねぎをみじん切りするかの如く、目にも留まらぬ速さで俺の四肢を切断しようとする謎の女。
「ちょいちょいちょいちょいちょぉぉぉぉぉおおおおおい!」
あまりの手際の良さに思わずツッコミを入れてしまう俺。見知らぬ人間に、まず一太刀浴びせるってのが暴虐すぎるんだけど。ってか、死んでないからもう一回切るってのも物騒すぎる。
「分かった、分かった、あーしの負けだ。負けを認めよう」
そう言いながら、女性は両手を上げて降伏の姿勢を見せた。どうやら彼女は見切りをつけるのが早い、潔い人間のようだ。
「にしても、ボウズ、
独り言を言いながら、彼女は大きく息を吸って言った。特撮ヒーローの登場するシーンのように、示し合わせたかのように火山がバックでドーンと大きな音をたてながら噴火する。
――あーしはデルナモ! みんなあーしのことを、「獄炎王」と呼ぶ!
ああ、ですよねー。なんとなくそうだと思っていました。
俺は心の中で、これほどこの称号がぴったり似合う人間はいないだろうと、ただただ感心していた。
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